●▲■ きた産業 メルマガ・ニューズ vol.156 ●▲■
     発行日:2011年7月28日(木)
  ■アルコール飲料産業のためのクロスオーバー情報■

発行:きた産業株式会社 http://www.kitasangyo.com

 

------------------< 目 次 >------------------

●▲■お米の直播き(じかまき)栽培と規模拡大
  ●▲■ 水田に「田植え」の日本
  ●▲■ 水田で「直播き」:アメリカの米栽培
  ●▲■ 「落水直播き」の山田錦

                  (text =入江経明)

ご紹介商品●1▲高ガス含有発泡飲料試作のための「TAN3 ROBO」
ご紹介商品●2▲手回しタックラベラー「はっ太郎」
ご紹介資料●3▲パッケージ・デザイン・アーカイブズ

 

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 今回は、酒米「山田錦」のふるさと、三木市在住の
  入江経明さんからの寄稿です。

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 ●▲■ 水田に「田植え」の日本

6月初旬、我が町兵庫県三木市は田植えの真っ最中である。
と云っても広い区域に田植機が1〜2台動いているだけで、
忙しさは感じられない。

田植機が大型化して多くの農家が1〜2日の作業で終える。
この後秋の刈り取りまで田んぼに人影はあまり見かけない。

日本では慣行的に手植えによる田植えが行われてきた。
十分に管理された苗床で丈夫な苗を育て、
品質・収量の安定を図り、
さらに水を満たした「湛水田」に植えることで
雑草の生育を抑える事ができた。
(注:湛水田(たんすいでん)は稲作用語。水を満たした田)

ただしそのためには今と違い多くの労力を要した。

それでも続ける事ができたのは米作りがもつ高い生産性である。
1平方メートル当たり今で0.5kg、江戸時代でその半分弱。

日本の歴史で近世まで石高(米の生産量)と人口とは比例していた。
「1石(150kg)当り一人」である。
大多数が農民であった江戸時代では過酷な作業ではあったが
ともかく田植作業ができる面積であった。

小麦ではそうはいかない。
小麦の収量は米の数分の一であったから
等量を得るためには数倍の土地を耕さなければならない。
ヨーロッパでは早い時代から牛馬を使用した大規模農法が発達した。

日本でも明治になって大規模な米作経営が試みられたが
当時の労働集約型の米作りでは規模によるメリットが見出せず
長続きしなかった。

 

 

 ●▲■ 水田で「直播き」:アメリカの米栽培

生産量が日本とほぼ同じアメリカの米作りは17世紀に始まった。
当初は南部のプランテーション作物の一つとして
湖沼地帯で常時湛水している水田で直播き栽培された。
商品作物なので生産コストが優先した。
土地が広く安いので面積当たりの収量よりも
雇い人一人当たりの収量が重視された。

種籾に泥を塗りつけて錘として播くなど工夫がなされたが
湛水田での作業はいかにも効率が悪い。
やがて潮の満ち引きとか堰を利用して灌排水ができる
沿岸河川地帯に移った。

種まき刈り取りは畑地状態(乾田)で、
生育は湛水状態(水田)で行われるようになった。
ヨーロッパの大規模農法に準じた手法である。
雑草は冬季に何度か粗耕して絶やした。

果樹栽培が盛んなカリフォルニアでは20世紀に入って
果樹が根腐れして育たない湿地帯に米が植えられた。
湛水田に種籾をバラ播く。

米はカルローズという日本にも輸入されている中粒種で
湛水田での直播きに適していた。

 

 

 ●▲■ 「田植え」から「直播き」へ
       :1経営体当り20〜30ヘクタールのために

アメリカでは1戸当りおよそ100ヘクタールの水田を耕作している。
この広さは戸主一人が自分の農機具を最も効率よく稼働できる面積である。
この広さをアメリカの「米作り技術単位」と云う。

対して日本では多くの農家が1ヘクタール前後しか耕作していないのに
所持する農機具の技術単位は5〜10ヘクタールと云われている。

兼業農家が多く短期間で農作業を済まそうとするため
過剰な設備になる。

少し前まで3ちゃん(じっちゃん、ばっちゃん、かぁちゃん)
で凌いできたが今は田んぼに見かけない。

設備の償却と米価の低落で収支トントン、
田んぼを人に貸しても無償、
食べる米は買っている等々、周りの農家から聞こえてくる。

 

今年3月4日、農協のトップ組織JA全中は
環太平洋経済連携協定(TPP)への参加問題をきっかけに方針を大変換した。
これまで兼業小規模農家の保護にも力を注いできたが
今後は
   「専業農家や農業生産法人などの育成に努め
    1経営体当りの耕作面積を20〜30ヘクタールにして
    国際競争力を強化する」
としている。
実現は5年後。

規模拡大によってコストダウンを図るためには
耕作面積に合わせた技術単位が必要になる。

技術単位の低い農機具を複数並べても
その分要員が必要でコストダウンにつながらない。
技術単位を大幅に引き上げるには
「田植え」から「直播き」に替えなければならない。

理由は、規模を拡大するほど、
育苗、田植作業が全作業に占める割合が高くなること、
直播機は田植機に比べ構造が簡単で大型化しやすく
スピードが速いことである。 
 

 

 ●▲■ 昭和までの「直播き」栽培

日本で最初の直播き栽培は明治中期に北海道で行われた。
当地では春先出来るだけ早く苗を育て初夏に花を咲かせないと結実しない。
田植えをすると一旦生育が停止して花が咲くのが遅れるので直播き方式が採られた。
そして夜の冷え込みを防ぐため「湛水直播」した。

昭和初期には北海道の大部分に普及したが
その後数年にわたる春先の冷え込みで苗が育たず大不作が続いた。
そこでより安全な保護育苗法が考案され取って代わられた。
乾田に苗床を作り種籾を播いて油紙で覆い低温から守る育苗法である。

改めて直播き栽培が見直されたのは
昭和40年代に入ってからである。
高度成長時代が始まり農業労働力が流出して
田植えなどに支障を来たす様になった。

先ず「乾田直播」が岡山県南部を中心に普及した。
元々この地方では裏作の麦を刈り取る前にその条間に種籾を播いていた。
乾田直播のノウハウは持ち得ていた。

乾田での種まきは「ふね」と呼ばれる船形の木箱を用いた。
種籾を入れ縄で引きずり歩くと
種籾がうまい具合にこぼれ落ちていく仕掛けになっていた。
苗が本葉2枚程度に成長したら灌水して水田にする。

乾田法は土地と気候を選ぶ。
乾田にするためには水はけが良く
しかも漏水しにくい土壌でなければならない。
「代掻き」(しろかき:田植前に水を張った状態で
土を細かく砕いて漏水を防ぐ作業)をしないからである。
また播種前に雨が降ると土が粘って種まき出来ない。
雨が少ない岡山県以外に普及しなかったのは
これらの条件が厳しかったからであろう。

乾田直播のピークは40年代末で
それ以降田植機の普及で減少に転じた。
作業量が多い田植えに敢えて戻したのは
「会社の休日前に雨が降られたら直播きは出来ないが
田植えなら出来るから」と云われている。
兼業農家が増えたのである。

一方、昭和40年頃に秋田県の八郎潟に大型干拓水田が完成した。
そこではカリフォルニア方式の大規模な「湛水直播」の試験が行われた。
結果は残念ながら発芽不良、苗転びが目立ち収量が著しく劣った。

さらに干拓直後のせいもあって地盤が軟弱で
アメリカ製の大型コンバインが立ち往生するなどして大規模農法は見送られた。
試験者はレポートの中で使用した米の品種について検討が足らなかったとしている。
 
湛水直播法は代掻きなど田植法と共通する部分が多く
乾田法のように土地を選ばない。
しかし湛水しているため酸素が不足し発芽しにくく、
さらに根が土の中に入りづらく苗が転びやすい。
種籾を土の中に埋めると転ばないが、
決定的に酸素が不足して腐ってしまう。
 
昭和50年代初頭、酸素不足を補うため
酸素供給剤(商品名カルパー)を種籾にコーティングする方法が考案され、
灌水田の土の中に種籾を埋める「湛水土壌中直播法」が開発された。
人力式、動力式の直播機が考案されある程度普及したが
田植法に比べて屑米の発生と減収が嫌われ
全国的に普及するまでには至らなかった。

考案者は「農家は品質と収量に厳格すぎる」とぼやいた。

 

 ●▲■ 平成以降の「直播き」栽培

平成に入って新しく「落水土壌中直播法」が考案された。
この方法は先の直播法の改良法で代掻きしてから水を落として
半乾きの土の中に酸素供給剤をコーティングした籾を植える。
苗が育ったら再び水を張る。
土の表面が空気に触れているので発芽・根張りが良く倒伏が少ない。
この方法が実現したのは落水中の雑草の生育を抑える
除草剤の認可によるところが大きい。

同じく平成に入って乾田直播法を改善して
「不耕起乾田直播法」が考案された。
種まき前に耕さず硬い土にX字型のロータリーで溝を切り
その中にパイプで誘導された種籾と肥料を落とし
チェーンを引きずって埋め戻す。
これらが一体になった直播装置はトラクターで牽引する。
不耕起で根が十分に張るだろうかと懸念されるが
逆にたくましい根が張って倒伏しにくいそうである。
この方法の最大の利点は種まき時分に少々の雨が降っても
土が固いので作業が可能な事である。

これら方法は共に規模の拡大を目指して
官民共同研究され平成10年頃から実用化され今に至っている。

両者のメリットを整理するとこうなる。
「落水土壌中直播法」:
   天候に左右されない
   雑草が少ない、等
「不耕起乾田直播法」:
   大型機が使用できる
   倒伏に強い
   酸素供給剤が不要
   鳥害(種籾を食べられる)が少ない、等

前者は雨の多い北陸など日本海側で、
後者は雨の少ない東海など太平洋側で広まっている。

 

 ●▲■ 「落水直播き」の山田錦

2年前、隣町の某営農グループの落水直播きを見学した。
農家20戸、12ヘクタールで構成され
9年前から落水直播きを行っている。
直播機は田植機と同じ大きさの座乗式で後ろに種籾と肥料の箱が載っている。
夫々の箱からは6本のパイプが延びている。
パイプの先端には前後に小さな鍬(すき)が付いていて
前で溝を切り後ろで埋め戻している。 

装置は極めて単純でスピードは田植機より速く
苗箱の頻繁な補充がないので補助員も少なくて労力は1/3になったそうである。
さらに育苗作業がないので作業全体としても3割減になった。

ところで直播きを始めた理由を尋ねると
「近頃は平日に会社の休みが取りづらくなったから」
ちょっと思惑が外れた。
野菜か何か他の栽培に時間を当てると思っていた。

収穫前にも見に行った。
株間が不揃いで株の太さもまちまちであったが
稲穂を見渡すと田植したものとほとんど変わらない。
各地の試験報告で指摘されている倒伏による屑米の発生とか減収に対して
ここでは特に問題はないそうである。

その後酒米試験地の紹介で「落水直播きした山田錦」の刈り取りも見た。
山田錦は背が高く倒伏しやすいとされるが見た限り目立つことはなかった。
山田錦はもともと根張りが強いので
肥料をやり過ぎさえしなければ倒れないと専門家から聞いたことがある。

 

 
  ●▲■ 日本の基幹農業を守るために

日本の気候と土壌に合わせた直播法が実用化されているが
全国的に見ればその普及率は未だ1%強に過ぎない。

何故であろう。
それは田植機の普及が先行したからである。
明治以降多くの特許が出されていたが
実用機の完成は農業労働力が流出し始めた昭和40年代である。

田植えと云う慣行農法が引継げるとして
爆発的に普及した。
人力手押し型から動力手押し型、
座乗型と機能は大幅に向上したが
その価格は農家が兼業して買える範囲内であった。
おかげで土地を手放さずに済んだ。

農地の集約化が進まないのは
農家の土地に対する強い愛着心、
高価格の土地、
農地法(最近緩和されつつある)と云われている。

海外との価格差の根本原因は規模の違いによるものと誰もが認識しつつ
日本の地理的歴史的な理由を挙げて
規模拡大は無視あるいは暴論として隅に追いやられていた。

しかしここでJA全中は規模拡大に大きく舵を切った。
方針通り農地を集約し規模を拡大するためには
恐らく親子2〜3代、100年の計が必要であろう。

時間が掛かっても日本の基幹農業を守るために
ぜひ敢行して欲しいと願っている。

 

  text:入江経明
  (大手酒造メーカーの技術担当部長を経て、
   現在は清酒製造の指導やコンサルティングをおこなう。
   本メルマガvol.94と95に『酒米「山田錦」の長い歩み』を寄稿)

 

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さて、商品の紹介です。

 

●▲■ ご紹介商品 その1:ROOTSディビジョン ●▲■
  高ガス含有発泡飲料試作のための「TAN3 ROBO」
  http://www.kitasangyo.com/Products/Data/gas/TAN3ROBO_WOP.pdf

150リットルサイズ、高耐圧の
冷却機能付きパイロットプラントです。

18リットル、または36リットルの
アメリカZ&N社のパイロットプラントもどうぞ。
  http://www.kitasangyo.com/Products/Data/gas/PilotPlant.html

 

 

●▲■ ご紹介商品 その2:ROOTSディビジョン ●▲■
  手回しタックラベラー「はっ太郎」
  http://www.kitasangyo.com/Products/Data/machine/hattarou_ed04_WOP.pdf

卓上の手回し式ラベラー。
日付スタンプのオプションもあります。

以下のラベラーもとても便利です。

卓上ラベル糊つけ機
  http://www.kitasangyo.com/Products/Data/machine/Schaefer.html

木製!の手回しラベラー、フランスの生まれの「はるよさん」
  http://www.kitasangyo.com/Products/Data/machine/haruyosan_ed02_WOP.pdf

卓上電動ラベラー「変化(へんげ)」
  http://www.kitasangyo.com/Products/Data/machine/henge_WOP.pdf

 

●▲■ ご紹介資料 その3:K2ディビジョン ●▲■
  パッケージ・デザイン・アーカイブズを更新
  http://www.kitasangyo.com/Archive/Package-design-archive.html

上記はアーカイブズのトップページです。
様々なデザイン事例を収録していますので、ご参考に。

最初の二つは最近収録した#207と#206で、
「シャンパン壜に入ったワイン」と
「シャンパン壜に入った清酒と和酒」です。

 

 

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●▲■バックナンバー閲覧可能!「メルマガ・クロニクル」

http://www.kitasangyo.com/Archive/mlmg/BN_top.html

2002年5月の創刊以来のバックナンバーを収録しています。
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2006年4月の以来、きた産業のトピックスを写真で収録。
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