かつてドイツには各地域に固有のビアスタイルが無数に存在していた。19世紀後半のドイツ統一以降、国内のビール全般についていわゆるビール純粋令が適用されることとなり、ビールの原材料は麦芽、ホップ、水(および酵母)だけでなければならないとされた。第二次世界大戦後ドイツは東西に分裂し、その結果ビールの基準も別々のものに。つまり、東ドイツでは副原料の使用が認められるようになったのである。ポーランドとの国境近くにあるNeuzelleという小さな町のある醸造所は、そうして転化糖シロップを副原料としたオリジナルの黒ビールを醸造するようになった。ドイツ再統一後もしばらくはこのビールも認められていたが、現在ではこのビールのラベルに「ビール」と表示することは違法であるとされ、20,000ユーロもの罰金を科せられようとしている。それに対してこの醸造所は、この法律が小規模醸造所の創造する権利を侵害しているとして行政と争っている。
ドイツの現行法上でも例外は認められていて、一部特殊なビアスタイルが是認されている。しかし醸造所の度重なる申請にもかかわらず、このビールはその例外措置の適用を却下されてきた。結果、裁判となって、最高裁にまで持ち込まれることになった。判決がいつ出されるのかはまだ定かではない。
このビールは伝統的な黒ビール(Shwarzbier)の発酵終了後に、濃色麦芽由来の苦味とバランスさせるために液糖を添加するもの。その製品のラベルに「Shwarzbier」と表示したことがこの問題の発端となった。この純粋令は、ドイツ以外のEU加盟国で醸造されたビールには当然適用されず、またEUの緩やかな基準に適ってさえいればドイツ国内でも流通可能。つまり、このビールをほんの数キロ先のポーランドで醸造したのであれば、このラベルの問題は生じない上に、それをドイツに持ってきてビールとして販売しても問題とならないわけである。
国内消費の減少傾向が止まらないドイツのビール業界では、お隣のベルギーがフルーツやハーブ等を原材料に使用した多様なビールで世界的な名声を得ていることを参考にして、ビアスタイルに関して新たな試みが可能なように規制を緩和した方がよいのではないか、という声も一部で上がってきている。
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