●▲■ きた産業 メルマガ・ニューズ vol.199 ●▲■
発行日:2013年9月20日(土)
■アルコール飲料産業のためのクロスオーバー情報■
発行:きた産業株式会社 http://www.kitasangyo.com
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<続・酒ブック紹介>
●▲■その4:「日本の居酒屋文化 赤提灯の魅力を探る」
・・・「ぐるなび」「食べログ」依存を反省
●▲■その5:「灘の蔵元三百年 国酒・日本酒の謎に迫る」
・・・「二増酒」、「日本酒低迷の真因」
●▲■その6:「逆境経営―山奥の地酒「獺祭」を
世界に届ける逆転発想法」
・・・稲盛経営本やMBA本ばかり読まず、、、
(text = 喜多常夫)
ご紹介情報●1▲ 「酒精強化ワイン見学記」(7ページ)
ご紹介情報●2▲ 「世界にはこんなサケもある」(19ページ)
ご紹介情報●3▲ 「マイクロ・サケ醸造所+マイクロ蒸留所も」(20ページ)
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前回メルマガに続いて、お酒関係の書籍紹介です。
●▲■その4:[居酒屋]本
「日本の居酒屋文化
赤提灯の魅力を探る」
マイク・モラスキー著 光文社 780円 2014年3月発行
気がつけば、
今宵飲む店を「ぐるなび」や「食べログ」で探し、
旅先で食事する店はウェブでチェックするのがあたりまえ、
そんな自分を反省させられる本。
著者は1956年セントルイス生まれのアメリカ人だが、
1976年以来、東京のみならず日本全国の、
居酒屋の暖簾をくぐり続けた、という変わり者。
「赤提灯依存症」を自称する居酒屋好きで、
居酒屋論は、前著「呑めば、都」に続く2冊目。
(前作も面白く、メルマガvol.179の書評で取りあげた。)
日本文化論が専門で、前作の時は一橋大学の教授だったが、
今は早稲田大学の教授。
ジャズピアニストでもある。
講演・演奏も聴いたことがあるのだけれど、
日本語堪能、ピアノもうまい。
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いまや全国どの駅前にも大資本チェーン居酒屋があるが、
もとよりそんな居酒屋は著者の眼中にない。
「チェーン店居酒屋で飲みたいとは思わない。
〈店〉よりも〈企業〉であるのが最大の欠点、
現在の居酒屋文化が直面している最大の脅威である。」
「おでん屋のチェーン店はないのではないか。
スナックや小料理屋もチェーン店がありそうにない。
マニュアル接客に向かないのだろう。」
「居酒屋は味と価格だけではない、
五感をもって満喫する場所である。
居酒屋は〈味〉よりも〈人〉である。」
長年の経験による居酒屋分析も興味深い。
「概して言えば、赤提灯より白提灯を掲げる店の方が
値段が高く洗練されている傾向がある。」
「庶民的な酒場であればあるほど〈私有権〉が少ない。
『コの字』カウンターは〈共有意識〉を高める。
ほぼ全員の顔が目に入り、耳を澄ませば会話も聞こえる。
自分の会話も周囲に共有されている。」
日本人以上の「日本的気配り」、あるいは
「古典オヤジ的感覚」には、同世代として共感させられる。
「カウンターのあるそば屋は少ない。
そば屋で一人酒を呑む場合、テーブルを独占しがちなので、
昼食の混雑時を避けるのが礼儀だろう。」
「居酒屋ダイニングなどとあれば、店内を覗くまでもなく
客層は主に若い女性かカップル。
『ダイニング』という流行の商標を掲げる店は私には合わない。
店選びは自分の好みを自覚するところから始まる。」
「(居酒屋で一人で本を読んでいるのはいいが、)
ケータイを凝視している客だと、
なぜか見ているだけでイライラしてくる。
本ではなくケータイだと私にはどうしても拒否反応が起こる。」
最終章は、
インターネット情報やガイドブックに頼らず、
自分の〈臭覚〉だけで良い居酒屋を探し出す方法論。
面白い。
日本人ならぬアメリカ人の視点だからこそ
これだけの境地を見いだしえたのかもしれない。
「パリのカフェ」、
「ロンドンのパブ」、
「スペインのバル」に伍する文化としての、
「ニッポンの居酒屋」を日本人として見直したいと感じた。
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●▲■その5:[日本酒]本
「灘の蔵元三百年
国酒・日本酒の謎に迫る」
西村隆治著 径書房 1,700円、2014年5月発行
著者は灘の大手蔵元「沢の鶴」の社長さん、十四代目当主。
「日本酒造組合中央会理事」で、
「日本酒で乾杯推進会議運営委員長」。
業界では辛口の論客として有名。
時々お会いすることもあるのだが、
いつもお洒落なシャツを着用されている。
本書に書かれる、
「全アルコール飲料中に占める日本酒の割合」を引用すると以下の通り。
1884年 97.8%
1930年 72.1%
1945年 50.9%
1973年(日本酒出荷が有史以来最大の973万石だった年)29.2%
1980年 21.6%
1990年 15.3%
2000年 10.0%
2011年 6.7%
嗚呼、國酒にしてこの凋落ぶり。
(注:著作中は國酒と国酒を使い分けていて、著書タイトルは国酒。)
著者は1984年から30年にわたって社長を務められるので、
業界の凋落・低迷を身をもって体験されてきた。
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日本酒凋落の大きな原因の一つは、
「三増酒」(米醗酵由来アルコールは1/3しかなくて、
残り2/3のアルコール分は醗酵ではなく添加したもの)。
米不足の戦中・戦後に端を発したこの三増酒は、
ようやく2006年に廃止になったものの、改正後の現行法でも、
「二増酒」(著者の表現。米由来アルコールが50%)まで許容、である。
「直ちにアルコール添加全面否定論に
賛同することは難しいかもしれません。」
「(アルコール添加の良い機能である)品質調整機能は
米1トンあたり約180リットル程度で効果が最大といわれる。
添加量はこの程度(=「二増酒」の半分=「1.5増」程度)に
制限すべきではないでしょうか。」
「三増酒」よりましにはなったが、今の
「普通酒=二増酒」状態を良しとは出来ない著者の心情には、
素人ながら大いに共感する。
(まったくの個人的意見を書かせてもらうと、
醸造機能視点でなく、世界マーケット視点で見る限り、
さらに厳しい「1.1増」上限くらいにすべきではないか思う。
これでシェリーやポートなどの酒精強化ワイン程度。
ワインにおける酒精強化は「醗酵を止める機能」が主眼、
特定名称酒などにおける酒精強化は今や「品質調整機能」が主眼、
と違いはあるが、世界では規制の厳しいお酒ほど成功している。)
そのほか、「日本酒低迷の真因」という項ではこう述べられる。
「酒類税制」
税収確保が主目的で、酒類産業育成を考えなかった
「級別廃止」
級別はある意味わかりやすかった
特定名称酒制度は基準として機能しているとはいい難い
「小売り免許自由化」
大手流通が免許を取得してディスカウント競争が始まる
「安売りの常態化」
商品の信用を失わせ、日本酒全体の消費量が減退
中央会としての立場や、灘大手企業として立場もあって、
発言が難しいのではないかと察するが、
きわめて正論で、歯切れ良い。
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日本酒低迷の部分ばかり書いてしまったが、
著書全体の文量としては、日本酒や灘酒の歴史、醸造技術など、
日本酒一般の情報が多くてこちらも興味深い。
古い蔵を活かして資料館を作った話
阪神淡路大震災で多くの建物が倒壊してからの建て直し
明治時代や戦前の蔵の写真
著者の子供時代・学生時代の写真
など、沢の鶴社自体の近代史・写真も面白い。
歴史ある大手蔵元では、
社史(流通しない限定書籍)を出されることはあるが、
社長さん自身が執筆される一般書籍はまれだと思う。
その点でも意義深い。
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●▲■その6:[日本酒&経営]本
「逆境経営
―山奥の地酒「獺祭」を世界に届ける逆転発想法」
桜井博志著 ダイヤモンド社 1,500円、2014年1月発行
2013年の出荷量は1万1,400石。
山田錦の購入量は4万俵で、全国生産の1割以上。
今、日本で一番高い成長率を誇る清酒「獺祭」の蔵元、
山口県の旭酒造の社長さんの著作。
私が持っている本は初版のわずか2ヶ月後の2014年3月発刊で
すでに「第6刷」となっている。
よく読まれているのだと思います。
勘当され、酒蔵を離れていた著者が、
父の急逝で蔵元を継いで社長となったのは30年前。
(偶々、「社長暦30年」は前著の沢の鶴の社長さんと同じ)
旭酒造の三代目に就いてから、
酒が売れずに倒産の危機に瀕し
地ビール事業に参入して失敗
経営が危ないと聞いて杜氏がこなくなる
など逆境の嵐。しかし、著者は
「『圧倒的な負け組』だったことが救ってくれた」
と述懐する。
逆境をへて現在の成功に至った実体験が綴られる。
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「旭富士」という先代からの銘柄を捨て、
「山田錦で精米歩合23%」をフラッグシップとする、
「獺祭」ブランドに全面切り替えした経緯も興味深いが、
ほかにも印象深い内容が多い。
旭酒造さんは、現在素晴らしい蔵を建設中。
巨額であろうその投資が業界では話題になっている。
「合わせて50億円以上はかかったでしょうか。
昔の資金繰りの苦労を思うと
今はこうして投資余力があることが本当にありがたい。
ただし社長車は当分中古車と縁が切れそうにありません。
一生無理かもしれません。
でもいいんです。酒蔵が趣味ですから。」
「行けるところまで行け、といっています。
『費用対効果』といった瞬間に、
この程度でいいという甘さがでる。」
もちろん実際は採算も考えておられると思うが、
「酒蔵が趣味です」
「行けるところまで行く」
という投資思想には感銘する。
社長さんの思いの詰まった設備こそ、一番強いのだと思う。
「日本の米減反政策」
「海外のサケに対する関税の問題」
酒造好適米の山田錦が不足しても、
米の減反政策があって増産しにくい。
台湾の関税は、ワイン10%、日本酒40%。
フランス政府はワイン関税引き下げを申し入れて40から10%に下がったが、
日本政府は日本酒の関税に対して何も言わないので40%のまま。
フランスワインが日本に入るときの関税と酒税は1本100円以下。
日本酒がフランスに入るときは1本270円以上。
こういった事情は初めて知ったが、
日本政府は是非とも是正策を実行してほしいものだ。
「サケ好きアメリカ人が、
日本に来て日本酒事情に幻滅する話」
京都の老舗の和食店では、
ワインの説明はするが、日本酒の説明はない。
銀座の寿司屋ではサケを楽しませるのでなく、
「寿司の邪魔をしない酒を置いています」といわれる。
自分がニューヨークで好きなサケ銘柄については、
「あちこち出始めたから酒質が落ちた」といわれる。
がっかりして帰国。
創作話だが、大いにリアリティーを感じ、
今の日本酒の国内情勢には、
成長途上の海外サケ市場の足を引っ張らないか危機感を持つ。
(加えて言えば、スーパーの売り場に並ぶ日本酒が
「紙パックばかり」である日本の現実を見ると、
このアメリカ人はさらに打ちのめされただろう。)
「東京−パリ−ニューヨーク」
ブランド品のブティック所在地のようだが、
これが「獺祭」の世界戦略だそう。
お酒でも世界を狙うためにこの3都市が鍵になる、
という清酒メーカー離れした慧眼(けいがん)と戦略に驚く。
しかも、
「外国人の食事・味覚にあわせた酒質」など考えず、
「日本人が美味しいと思う」酒で貫くという。
すでに東京に直営店「獺祭Bar23」があるが、
近々パリにも直営店を開業するそう。
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勿論、日本酒の本ではあるけれど、
経営書として興味深い一冊。
企業経営者は、
稲盛経営本やMBAテキスト的な本ばかり読まずに、
こういった経営スタイルも学ぶべきではないか。
なお、
「少し愛して、長く愛して」
(昔のサントリーウイスキーの大原麗子のCM、
元は、16世紀の詩人ロバート・へリックの詩)
という一節があって、この言葉が著者の経営哲学、
「がんばらないけれど、あきらめない」
に通じていて共感する、という記述があるのですが、そこに
私(喜多)の名前が書いてある。驚きました。
(text: 喜多常夫)
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さて、情報紹介です。
●▲■ ご紹介情報 その1:アーカイブ情報 ●▲■
「酒精強化ワイン見学記」(7ページ)
http://www.kitasangyo.com/Archive/Data/marsala.pdf
書評中に酒精強化(アルコール添加)の話題が出てきたので、
マルサラ、シェリー、ポート、マラガの訪問記録。
アルコール添加の歴史、
添加アルコール濃度は76〜95%くらいであること、
「アメリカのシェリー」「日本のポート」、
なども記載。
●▲■ ご紹介情報 その2:アーカイブ情報 ●▲■
「世界にはこんなサケもある」(19ページ)
http://www.kitasangyo.com/Archive/Data/least_known_sake.pdf
ブラジル、アメリカ、中国、韓国などで製造される、
「知られざるサケ」の写真資料。
最終ページは参考資料として、
「英国スコッチウイスキー協会」の
「イミテーション・ウイスキー」反対運動のレポート。
「日本酒造組合中央会」も
「イミテーション・サケ」反対運動をする時が来るかもしれないが、
その前に、日本の、
「合成清酒」や「アルコール添加許容限度」を
なんとかしなければならない。
●▲■ ご紹介情報 その3:アーカイブ情報 ●▲■
「マイクロ・サケ醸造所+マイクロ・スピリッツ蒸留所」(20ページ)
http://www.kitasangyo.com/Archive/Data/MicroSakeB_ed2.pdf
2013〜2014年にかけて
アメリカのシアトル、ノースキャロライナ(2箇所)、
カナダのバンクーバー
に新しく出来た「マイクロ・サケ醸造所」を追加。
アメリカや英国で増えつつあるマイクロ・スピリッツ蒸留所のこと、
ハワイに新しくできた「マイクロ・芋焼酎蒸留所」も掲載。
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http://www.kitasangyo.com/Archive/mlmg/BN_top.html
2002年5月の創刊以来のバックナンバーを収録しています。
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2006年4月の以来、きた産業のトピックスを写真で収録。
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