●▲■ きた産業 メルマガ・ニューズ vol.238 ●▲■
発行日:2018年1月30日(火)
■アルコール飲料産業のためのクロスオーバー情報■

  発行:きた産業株式会社 http://www.kitasangyo.com

 

------------------< 目 次 >------------------

●▲■ 「ビーフィーター・ジン」工場見学記

  ▲● ボタニカルが定義する酒類
■▲ ビーフィーター・ジンの製造工程と蒸留器観察
■● 「日本ボタニカル」の存在感@ジンとビール

                    text = 喜多常夫

ご紹介情報●1▲「お酒スタティスティクス」
ご紹介情報●2▲「BPAとフタル酸の情報整理」
ご紹介情報●3▲「N2-O2-CO2ガス関連文献」

 

 

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2017年暮れの英国出張の時、
世界的に有名な「ビーフィーター」ジンを訪問しました。
今回はその工場見学記を書きます。

 

「ジン」は、
世界的には「ジンフィズ」を代表とするカクテルベースの酒
日本では缶入りRTDのベースになることがある酒
といった一般認識で、詳しく知らない方も多いと思います。

 

工場見学記の前に、
日本と世界のジンの市場を見ておきます。

 

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●▲■ 新世代のジン「ジャパニーズ・クラフト・ジン」

日本では「クラフト・ジン」と呼ばれる、
高価格帯のジンの新商品が次々登場していて、
業界ではずいぶん話題になっています。

 

2016年の
●京都蒸溜所「季の美」
を嚆矢(こうし)とし、

2017年に、大手では
●サントリー「六 ROKU」
●ニッカ「カフェジン」

大手以外では
●本坊酒造「Japanese GIN 和美人」
●宮下酒造「クラフトジン岡山」
●まさひろ酒造(沖縄)「オキナワジン」
●中野BC(和歌山)「槙-KOZUE」
●京屋(宮崎)「油津吟 YUZU GIN」
その他、数社が発売。

2018年もいくつかの新製品が見込まれます。

これらの新世代のジンに共通するのは
「ジャパニーズ・ボタニカル」(後述)。

 

「季の美」や「六 ROKU」はすでに海外展開を始めていますし、
その他の製品も、
国内だけでなく海外市場を意識したものが多いと思います。

 

 

●▲■ 植物が定義するお酒、ジン

「ビールにおけるホップ」のように、
香りや味覚のための特定の植物(ボタニカル)が、
お酒そのものを定義(特徴)づける酒類は多い。
ジンもその一つです。

   ■ビール:                ホップ
■ジン:                  ジュニパーベリー
■ウォッカ:    白樺の活性炭
■アブサン:   ニガヨモギ

(注)「ジュニパー」:
和名:セイヨウネズ(西洋杜松)、雌雄異体のヒノキ科針葉樹。
杉やヒノキの球果は松ぼっくりのような「木質」が普通だが、
ジュニパーの球果はちょっと柔らかい「肉質」で、
熟すとブルーベリーに似た青紫色の実(「ジュニパーベリー」)になる。

「ジンとは、ジュニパーベリーを使った蒸留酒」
というのが世界の共通定義。
実際には、ジュニパー以外に、
数種から十数種のボタニカルを使うのが通例。

逆に言えば、
ジンで使われるいろいろなボタニカルを使っても、
ジュニパーベリーを使わない蒸留酒はジンと称しない。
「ニッポンの新しいスピリッツ」として発売されている
三和酒類の「TSUMUGI」はこれに該当するのかもしれません。

 

 

●▲■ ジンの世界市場とランキング

2016年の蒸留酒の世界市場はこんな感じだそう。

  ●ウイスキー:  324万KL(前年比 +2.5%)
●ウォッカ:                 306万KL(前年比 ▲ 0.7%)
●ブランデー:   154万KL(前年比 +2.3%)
●ラム:                     137万KL(前年比 +0.1%)
●リキュール類:           97万KL(前年比 ± 0.0%)
●ジン:                    63万KL(前年比 +5.4%)

 (日本の焼酎、中国の白酒、韓国のソジュなど、アジアの蒸留酒を除く、
「世界的カテゴリーの蒸留酒」の市場サイズ、出所:DRINKS INT'L)

ジンは、量でウイスキーの1/5、
蒸留酒カテゴリーでは6位とはいえ、
伸び率はトップ(+5.4%)。

日本だけでなく、世界的に伸びているのが分かります。

 

ジンの世界ランキング、2016年生産量はこんな感じ。(出所:同)

  ▲1. Ginebra San Miguel (フィリピン)19.3万KL
●2. ゴードン              4.1万KL
●3. ボンベイ             3.4万KL
●4. タンカレー                       2.7万KL
●5. ビーフィーター                   2.5万KL

突出1位のサンミゲルのジンは、
我々になじみのない「ローカルブランド」。
(世界シェア1位がローカルブランド、というのはよくある。
ウイスキー1位はインド、ブランデー1位はフィリピン。)

2位以下の、
ゴードン、ボンベイ、タンカレー、ビーフィーターが、
「グローバルブランド」(世界中で販売されるブランド)で、
その名前をご存知の方が多いと思います。
4つとも英国の製品で、
「ロンドン・ドライ・ジン」と呼ばれるカテゴリー。

 

先述のジンの世界全体量63万KLは、日本式に言えば350万石。
日本の本格焼酎のピーク時(2007年)需要よりやや多い程度。

今回見学したビーフィーターの2.5万KLは14万石。
本格焼酎蔵元の4位・5位くらいのイメージ。

 

 

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さて、以下が本題の見学記。

ビーフィーターは4つの主要ロンドン・ジン・ブランドの中で
唯一今もロンドン市内にある。
地下鉄を乗り継いでいけるので見学には好都合です。

 

●▲■ ジンの製造手順

見学の第一目的は、
ジンの具体的な製造手順を知ることでした。

ところが、見学ツアーでは、
様々な植物原料(ボタニカル)の解説
蒸留装置の概要
会社の歴史・ジンの歴史
は教えてくれたが、残念ながら、
ジンの製造手順
は、ほとんど説明なし。

たぶん、植物原料の入れ方や投入量、
蒸溜の手順などは、非公開のノウハウなのでしょう。

 

かろうじて、試飲室の壁に、
4枚のパネルで簡単な製造工程が掲示してあるのを発見。
以下にパネルの説明文を自己解釈を含めて和訳しておきます。

●1「浸漬24時間」:
96%の(購入)アルコールを65%に薄めてスチルに入れ、
そこに「ボタニカル原料」を投入して24時間浸漬
(日本の清酒や甲類焼酎、韓国のソジュと同じく、
ジンは原料アルコールを利用する産業なのだ)

●2「蒸留7時間」:
スチームジャケットで加熱して7時間かけて蒸留、
ボタニカル原料由来の蒸気を次工程に送る
(7時間は結構長いように思います)

●3「カット」:
蒸気はコンデンサー(冷却機)をへて液体になり、
次に「スピリッツセーフ」に導かれ
ヘッドとテールをより分け、「ハート」をとる
蒸留技師によるこの作業がビーフィーターの品質をきめる
(ヘッドとテールは再蒸留せず、社外に売却するそう)

●4「壜詰め」:
スピリッツセーフから出てくるのはアルコール80%
これをソフトな純水で最終製品の度数に薄めて壜詰め

 

ジンは、英国ならぬ、オランダが発祥です。
なにかの本で、
「オランダのジン(ジュネバ)はボタニカルを浸漬、
イギリスのジンは蒸留蒸気途中にボタニカルを置いて抽出」
と読んだ記憶がありますが、
少なくともビーフィーターでは浸漬方式のようです。

 

 

●▲■ ジンの蒸留器

ビーフィーターのメインの蒸留器は、
古めかしい90HLくらいのものが5基。
ポットスチルの上に5段の精留塔(板)がのった構造。

日本でも時々見かけるいわゆる「ハイブリッド蒸留器」は
「ポットスチル(単式蒸留器、またはアランビック)」と
「精留塔(連続蒸留器、英語でエンリッチコラム)」が
「左右」にあるが、このビーフィーターの蒸留器は
「上下」に重ねた構造。
とても背が高い。

蒸気が通る上部構造はすべて銅製だが、
最下部の釜は少なくとも外観はステンレス(スチール?)だった。

そのほか、30HLくらいの蒸留器が3基。
これはウイスキーと同形式の単式のポットスチルで、
すべて銅製。

どちらも共通して、ネック部分・ラインアームが極端に長い。
そのせいか、コンデンサー(冷却器)はごく小ぶり。
このような構造は蒸留品質にも影響するでしょう。

冷却された蒸留液は、
ウイスキーで見かけるのと同じ「スピリッツセーフ」で、
ヘッド、ハート、テールを区分する。

 

 以上のことは、アーカイブ資料で写真をご覧いただけます。

 ●▲■きた産業の酒類情報アーカイブ

 「ビーフィーター見学記in LONDON 2017
+ジンとボタニカルの小考察」(全9ページ)
http://www.kitasangyo.com/pdf/archive/world-alcoholic/gin&botanicals.pdf

蒸留釜の写真のほか、手描きの蒸留工場レイアウトを記録。
そのほか、
蒸気途中にボタニカルを置いて抽出する方式の蒸留器の写真
ボタニカルに関する考察
1947~2016年の70年間のジンのキャップの変遷
絵画に見るジンの歴史
絵画に見るアブサンの歴史
も収載しています。

なお、アブサンは、
その幻覚作用から欧米では長らく禁止され、
日本ではなじみが少ない酒ですが、、
ビーフィーターのオーナーである「ペルノ・リカール」社の
「ペルノ」はかつて禁止前のアブサンで財をなした会社、
「リカール」はパスティス(禁止時代のアブサン代替酒)で成功した会社
です。

 

 

 

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最後に「ボタニカル」の考察。
これが本稿のもう一つの主題です。

 

●▲■ ビーフィーターのボタニカルに日本茶(!)

スタンダードの「ビーフィーター」のボタニカルは9種

  ジュニパーベリー、レモンピール、コリアンダーシード
アーモンド、セヴィリアオレンジピール、オリスシード
リコリスルート、アンジェリカルート、アンジェリカシード

カタカナで書くとわかりにくいけれど、
ベリーは「実」、ピールは「乾燥果皮」、
シードは「種」、ルートは「根」。

見学ツアーでは主要ボタニカルの実物を、
触ったり、匂いをかいだりできるのですが、
一番印象的だったボタニカルは

  日本茶(煎茶)

これは知らなかった。

 

ビーフィーターの製品は現在わずか4種類。
日本の酒造会社のように何十種類も製品があったりしない。
新製品も数年に一度。

2008年発売の「ビーフィーター24」は、
10年前のリリースとはいえ新製品で、
日本でインスピレーションを得たものだそう。
特徴原料が、
日本茶(煎茶)
すなわちジャパニーズ・ボタニカル。

日本ならぬ英国ロンドンの酒造会社が、
10年前から日本のボタニカルに注目していたとは、、、

知らなかった。

 

 

●▲■ ジャパニーズ・ジンのボタニカル観察

ジャパニーズ・ジンのボタニカルを観察してみます。

 

■「季の美」京都蒸留所 → 11種
ジュニパーベリー、オリス、檜、
柚子、レモン、緑茶(玉露)、生姜、
赤紫蘇、笹の葉、山椒(実)、木の芽

■「六 ROKU」サントリー → 6種+8種=14種
ジュニパーベリー、桜、桜葉、煎茶、玉露、山椒、柚子、
コリアンダーシード、アンジェリカルート、
アンジェリカシード、カルダモンシード、シナモン、
ビターオレンジピール、レモンピール

■「カフェジン」ニッカ → 6種(以上)
ジュニパーベリー、
柚子、甘夏、かぼす、などの和柑橘
山椒、リンゴ

■「Japanese GIN 和美人」本坊酒造 → 9種
ジュニパーベリー、金柑、柚子、緑茶、
檸檬、辺塚橙、けせん、月桃、紫蘇、生姜

■「油津吟 YUZU GIN」京屋(宮崎) → 9種
ジュニパーベリー、柚子、山椒、生姜、きゅうり、
ヘベス、日向夏、コリアンダーシード、グローブ

 

柚子や山椒は多くに共通しているのが分かります。

そして一方、
「YUZU」や「SANSHO」は「世界で通じる日本語」であり、
世界中で人気の日本食材。

そのほか、
緑茶、玉露、シソ、生姜、なども海外で人気の材料です。

世界で認知される食材が原料であることは、
世界商品に育つ上で大きなプラスでしょう。

「ジャパニーズ・ウイスキー」はいまや世界商品です。
「ジャパニーズ・ジン」は、その品質次第で、
ジャパニーズ・ウイスキーに次ぐ、
世界商品(プレミアム商品)になるかもしれません。

 

 

●▲■ ビールのジャパニーズ・ボタニカル

話は飛びますが、
2018年4月の酒税法改正で、
ビールに新たに許容される副原料にはこんなものがあります。

   山椒、茶、そば、ごま、花、
コリアンダー、カモミール、胡椒、シナモン、
こんぶ、わかめ、そば、など

山椒や茶はジャパニーズ・ジンと重なります。

柚子は法律文面には入っていないけれど、
「その他の香辛料」「その他のハーブ」「その他の野菜」
という文言があるので、使用可能なのかもしれません。

世界で通じる日本材料を網羅したのは、
慧眼(けいがん)であると思います。

 

日本のクラフトビールは、実は輸出が大変盛んです。
日本ボタニカルが副原料になったビールは、
世界市場で大きな価値を生む可能性があります。

 

なお、植物(ボタニカル)ではありませんが、
かつお節、味噌、牡蠣、など
も、新たにビール副原料に加えられるそう。

クラフトビールのヤッホーブルーイングは
かつお節を原料にした輸出専用発泡酒
「ソーリー ウマミ IPA」を製造していましたが、
酒税法改正で4月からビールとして国内販売予定、
と新聞報道にありました。

かつお節、こんぶなどの
「うまみUMAMI」
も、いまや世界語であることはポイントでしょう。

 

世界で認識されるようになった
日本(日本語)のボタニカルや食材は、
日本酒類が世界でプレミアム製品を拡売する戦略上、
とても重要な役割を果たすと考えます。

 

                     text = 喜多常夫

 

 

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さて、情報紹介。

 

●▲■ご紹介情報 その1  e-アカデミー ●▲■
「お酒スタティスティクス」
http://www.kitasangyo.com/e-academy/osake-statistics.html

●海外主要国のサケ市場サイズの推定
●日本ウイスキーのマーケットの変遷
●焼酎の世界マーケットの分析
など、過去にまとめた酒類市場の分析資料です。

 

 

●▲■ご紹介情報 その2  e-アカデミー ●▲■
「BPAとフタル酸の情報整理」(全16ページ)
http://www.kitasangyo.com/pdf/e-academy/caps-and-corks/bpa2016.pdf

 

カリフォルニアのBPA規制で多くのお問い合わせをいただきます。
BPAやフタル酸に関する技術情報をまとめた資料です。

BPAフリー対応のキャップについてはご照会ください。

 

 

●▲■ご紹介情報 その3 e-アカデミー ●▲■
「N2-O2-CO2ガス関連文献」
http://www.kitasangyo.com/e-academy/n2-o2-co2-gas.html

 

●ガス飲料の炭酸ガス含有量の測定方法
●炭酸ガス飲料の試作パイロットプラント
●ビールへの窒素ガス利用
●液体窒素滴下の酒類への応用
●びん内二次醗酵スパークリングワインの製造方法
など、さまざまな技術文献を収載しています。

ガス関連技術なら、当社にお任せください。

 

 

 

 

 

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●▲■バックナンバー閲覧可能!「メルマガ・クロニクル」

http://www.kitasangyo.com/Archive/mlmg/BN_top.html

2002年5月の創刊以来のバックナンバーを収録しています。
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2006年4月の以来、きた産業のトピックスを写真で収録。
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