●▲■ きた産業 メルマガ・ニューズ vol.244 ●▲■
発行日:2018年8月29日(水)
■アルコール飲料産業のためのクロスオーバー情報■

  発行:きた産業株式会社 http://www.kitasangyo.com

 

------------------< 目 次 >------------------

●▲■ 「クラフト・サケ醸造所」観察@バンクーバーとシアトル

  ▲● 3箇所の「クラフト・サケ醸造所」訪問記
●■ 閉店した「クラフト・サケ醸造所」
■▲ 100年前のバンクーバーとシアトルのサケ醸造

                    text = 喜多常夫

 

ご紹介情報●1▲ 「K2ガラス壜」の最近の製品3点
ご紹介情報●2▲ 「サケ・フロイント」:4ヘッドの半自動充填機
ご紹介情報●3▲ 「シアトルのクラフト蒸留」「東海岸のクラフト・サケ」

 

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前回は、急成長しているアメリカの「クラフト蒸留所」のことを書きました。

 

「クラフト」は、
先進国(または酒類消費が飽和している国)の酒造産業の
キーワードになりつつあります。

 

アメリカのクラフト酒類の規模はこんな具合:

 

 ●2005年の「クラフトビール醸造所」:                                1,447箇所
●2017年の「クラフトビール醸造所」:                                6,372箇所
(出所:Brewers Association)

●2005年の「クラフトスピリッツ蒸留所」:                     60箇所
●2017年の「クラフトスピリッツ蒸留所」:                  1,589箇所
(出所:American Craft Sprits Association)

 ●2005年の「クラフト・サケ醸造所」:                                     0箇所
●2018年の「クラフト・サケ醸造所」:                                    15箇所
(出所:きた産業、今現在=2018年8月の数字
実働があやふやなもの1箇所を含む)

 

「クラフト・サケ醸造所」は、まだごく少ない。
スピリッツやビールとは2桁違う。
だが、それゆえに、成長株というべきかもしれません。

 

5月に西海岸にいったとき、
バンクーバー(カナダ)とシアトル(アメリカ)で、
3箇所の「クラフト・サケ醸造所」も訪問したので、
今回はその記録を書きます。

 

 

●▲■その1「アーティザン・サケ・メーカー」●▲■

 

●基本情報
<銘柄>
「OSAKE」
<場所>
カナダ・バンクーバー
<創業時期> 
2007年開業
筆者が知る限り、日本国外で最も古いクラフト・サケ、
すなわち、「世界初のクラフトサケ醸造所」
<ロケーション>
ツーリストにも人気の高い「グランヴィルアイランド」内にある。
グランヴィルアイランドにはクラフトビール醸造所やクラフト蒸留所、
さらにワイン専門店もある。お酒好きは是非訪れるべき場所。
<創業者・杜氏>
白木正孝さんが設立、杜氏も務める。
<サケの種類>
純米、純米生、にごりなど。パッケージは375mlと750mlびんにTトップ栓。
販売価格は750mlびんで20ドル台から30ドル台。
スパークリングもある(500mlのEZキャップ)。

 

■特色・その1:[米を自分で栽培]

  「原料のブドウ栽培が基本」のワインとは違って、
ビールやサケは、「原料(モルトや米)は買うのが当たり前」。
ところが、白木さんは、
地元のカナダBC(ブリティッシュコ・ロンビア)州で、
米を栽培してそれを使ってサケを造る。
品種は北海道の酒造好適米「吟風」。
バンクーバーは北緯49度で、札幌(45度)よりはるかに北。
北海道の米でも難しいだろうが、日本式の水田栽培である。

  製品ボトルには「Made from 100% BC Grown Rice」の表示がある。  
「世界初(創業)のクラフトサケ」であると同時に、
「世界初の原料米を栽培するクラフトサケ」だと思う。

 

●特色・その2:[ローカルフードに合うサケ]

  精米歩合を高めて吟醸を造ろうとは考えない。
日本の評価基準で高評価のサケをめざすのではない。
地元の食事に合うサケを目指しているそう。
ローカルフード代表として、
ステーキ、ピザ、ムール貝とのペアリングを試させていただいたが
たしかにマッチする。

  『「クラフト」が、先進国の酒造産業のキーワード』、
と書きましたが、
「ローカル」が、もうひとつの重要なキーワード。
「ローカル原料」「ローカル生産」、そして「ローカル消費」は、
今後、あるべき消費形態だと思います。

 

 

●▲■その2「YK3プロデューサー」●▲■

 

●基本情報
<銘柄>
「YU(悠)」
<場所>
カナダ・リッチモンド(バンクーバーの南に接する都市)
<創業時期>
2013年。2011年から2012年まであった
クラフトサケ「ニプロ・ブリューイング」を引き継いだ。
<ロケーション>
いくつかの事務所や工場が入る平屋建物の一角に醸造所がある。
近くにはクラフトビール醸造所もある市街地。
<創業者・杜氏>
春日井敬明さんが、ニプロ時代からの杜氏。
出資者の河村祥宏さん、小林友紀さんと
春日井さんの3人のイニシャルがすべてYKなので「YK3」。
なお、なお、河村さんはニュージーランドのクイーンズタウンの
クラフトサケ「全黒(Zen Kuro)」にもかかわる。
<サケの種類>
種類は純米、吟醸、にごりなど8種類。
375ml壜にスクリューキャップ。
販売価格は20ドル台。

 

■特色・その1:[電気を使わない・自分で手入れできる設備]

  停電の経験や、機械修理に日数を要した経験から
設備は、
出来るだけ電気を使わないもの、
自分でメンテできるもの、を心がけているそう。
搾りの槽(ふね)や火入れ装置など、
シンプルな手作り設備が多い。
タンクはステンレスだが、
ジャケットのない開放型のシンプルなもの。

  ミシンが置いてあったので尋ねると
「酒袋を自分で縫う」そうだ。
徹底しているのに驚かされた。

 

■特色・その2:[醸造も販売も]

  春日井さんは、杜氏であると同時に、
営業やデリバリーも担当。
2年ほど前、日本のテレビ番組でYK3が紹介されたのを見たが、
春日井さんがバスやフェリーを乗り継いで営業する様子が
とても印象的だった。

  醸造から販売、顧客要望のフィードバックや在庫管理まで、
一人ですべてやるのは効率の良い面があるが、
とても大変な仕事だろう。
「一人で何でもこなす」というのは
クラフトでは他にもあるのかもしれないが、感心させられた。

 

 

●▲■その3「Tahoma Fuji Sake Brewing Co.」●▲■

●基本情報
<銘柄>
「タホマ富士」
ワシントン州の名峰「マウントレーニア」のことを、
かつての日系移民は「タコマ富士」と呼び、
ネイティブアメリカンは「タコマ」や「タホマ」と呼んだ。
醸造所があるのはシアトルで、シアトル南部の都市タコマと混同しないよう
「タホマ富士」にしたそう。タホマは神の水という意味もある。
<場所>
アメリカ・シアトル
<創業時期>
商業醸造の開始は2018年。ライセンス取得は2013年だそう。
<ロケーション>
シアトル中心部から北に車で20分ほど、バラードという住宅地。
自宅の裏庭に醸造所がある。
<創業者・杜氏>
Andrew Neyans(ナイヤンズ)さん。杜氏ではなくSake Makerを自称。
<サケの種類>
お酒の種類は純米、吟醸、にごりなど。750ml壜にTトップ栓。
販売価格は20ドル台から30ドル台。

 

■特色・その1:[自分で建てた醸造所]

  醸造所建物を(大工のお父さんと一緒に)自分で建てたそう。
コンパクトな建物ではあるが、
「自分で建てた醸造所でサケ醸造をしている」人は
世界唯一かもしれないと思った。
中には麹室も造ってあって、麹蓋も自作。
タンクや蒸米機は他の業界の機器の流用。
火入れ装置なども含め一揃いの設備がある。
(さすがに製米機はないが。)

 

■特色・その2:[日本的味わい]

  海外のクラフトサケでは、自分の基準でサケ造りをする人も多く、
日本のサケとは相当違った味や酒質になる事もある。
それはそれでよいと思うが、ナイヤンズさんは違う。

  富山県の富美菊と満寿泉でサケ醸造経験を積んだそう。
その経験を大事にしていて、「日本式の造り」を目指している。
今回訪問した3社のなかで、ナイヤンズさんのサケが、
「一番、日本的な味わい」だと思った。
米はカリフォルニアの「カルローズ」で60%精米。
麹は菱六である。

 

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以上のように、3つのクラフトサケは、
それぞれがとてもユニークな特徴をもっていた。

素人が味わった範囲の感想だが、

    日本人(アーティザンとYK3)が醸すサケより、
アメリカ人(タホマ富士)の醸すサケのほうが、
日本的なサケだった

のは、特に印象的だった。

 

3つのクラフトサケ醸造所のことは、以下の写真資料に詳しい。
バンクーバーとシアトルの、120~80年前のサケの歴史考察を含みます。

 

●▲■ アーカイブ情報 ●▲■

「西海岸のクラフトサケ醸造所+サケの歴史探訪」 (全13ページ)
http://www.kitasangyo.com/pdf/archive/sake-info/craft_sake_west_c.pdf

 

 

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上記アーカイブ資料にも少し書いているが、
実は、シアトルではもう一箇所、
このクラフトサケも訪問したいと思っていた。

 

●▲■その4「Cedar River Brewing」

●基本情報
<銘柄>
「Cedar River・杉川(Sugi Kawa)」
Cedar Riverはシアトルを流れる川の名前、
そのまま日本語訳して「杉川」。
<場所>
アメリカ・シアトル
<創業時期>
2013年
<ロケーション>
シアトルから北に20分ほど、フィニーリッジという場所
<創業者・杜氏> 
Jeff Jamesさん
<サケの銘柄・種類>
「純米」「生」「樽」「にごり」など

 

「杉川」は良いお酒、ときいて訪問を楽しみにしていたのだが、
調べてみると、自社のサイトで

   「醸造所は2017年11月に閉店。醸造作業は現在停止。」

と、公告していた。
結局訪問はかなわなかった。誠に残念。
開業後4年ほどで閉店されたことになる。

後日、オーナー杜氏のJeffさんとメールでやり取りをさせていただいたが、
サケに限ったことでなく、一人でやる仕事というのは、
継続が難しい場面があるのだろう。

 

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  「アメリカには現在15箇所のクラフトサケ醸造所がある」

と書いたが
アメリカ初のクラフトサケ(「Moto-i」)がミネソタに開業した2008年以来、
アメリカでのこの10年は、こんな変化だった。

   開業19箇所-閉鎖4箇所=操業中15箇所
15/19=生き残り率79%
(データ出所:きた産業)

創業した事業総てが生き残れるわけではないのは当然。
予定した利益が出ないと2~3年で苦しくなるだろう。
中には、サイドビジネスなので利益度外視、というところもあるが、
その場合でも、オーナーの変心で閉鎖がありうる。
また、明らかに「サケの品質や味に問題があったのが廃業の原因」、
と聞いている醸造所もある。

79%は、妥当な生存率ではないかと思う。

 

因みに、日本のクラフトビールは、
地ビール解禁の1995年以来23年で、こんな数字である。

   開業539箇所-閉鎖174箇所=操業中365箇所
365/539=生き残り率68%
(データ出所:きた産業)

 

 

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アーカイブ資料の後半には、
バンクーバーとシアトルの、120~80年前のサケの歴史も書いています。

 

2007年開業のバンクーバーの
「アーティザン・サケ・メーカー」白木さんは、
「世界初の(当然、カナダ初でもある)クラフト・サケ」ではあるが、
実は、
「カナダで初めてサケ(清酒)を造った人」ではない。

 

 

■1899年-リッチモンド■

  1899年~1911年(1918年?)、及川甚三郎という人がサケを造っていた。
当時、フレーザー川はサケ(魚の鮭)漁に従事する日本人が多かったが、
そのフレーザー川の中州の島、「ドン島」にサケ(清酒)醸造所があった。
(ドン島はYK3プロデューサーがあるリッチモンド市に所属。今は無人島)

  最盛期は日系市民向けなどに「数千ガロンのサケが生産されていた」が、
ライセンスなしのサケ醸造だったので「最後は警察が摘発」したそうだ。

 

■1923年-バンクーバー■

  カナダに於ける最初の合法的なサケ醸造所は、三宮幸一郎という人が始めた
Vancouver Malt & Sake Brewing Co.(和名「酒母麹(もとこうじ)醸造会社」)
で、1923年から1930年頃まで存在した。
住所はWoodland Dr.で、かつてのバンクーバーの日本人街。

  すくなくとも設立初期は自社銘柄のサケを販売したのではなく、
酒母(購入後10日ほどで上澄みが清酒となる)を販売していたようだ。
(今の酒税法では困難かもしれないが、やってみたい販売手法である。)

 

■1935年-シアトル■

  二瓶孝夫氏(元ホノルル酒造副社長、Joy of Sakeの原点となった人)が、
1970-80年代の日本醸造協会誌に、
ハワイ、サンフランシスコ、LA、デンバーに存在したサケ醸造所の
歴史や社名を発表しているが、
シアトル(および、バークレー、サンノゼ)については、
「社名不明だがサケ醸造所があった」とだけ書いている。

  昨年筆者が「酒史学会誌」に寄稿するときにいろいろ調べた結果、
Tsuji Sakae(ツジ・サカエ)という人(店名?)が、
1935年~1936年にかけて、かつてのシアトルの日本人街、
今も日系店舗が多く立ち並ぶDearborn St.という場所で
サケを造っていたようであることが分かった。

 

 

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(以下、2017年の「酒史学会誌」に掲載された筆者の拙稿
「北米におけるサケ醸造の歴史」の末尾の引用)

 

 100年以上前に移民日本人需要のためにはじまった北米のサケ醸造は、
30年ほど前からアメリカ人需要に移行しはじめ、
いまや日本人向けは全体の1割程度。
9割は日本人以外の需要といわれている。

 10年ほど前からはクラフト・サケ醸造所ができはじめ、
その過半はアメリカ人、カナダ人がオーナーまたは醸造家である。

 日本のサケは、戦前はすべて純米だったが、
戦後はアルコール添加が一般的になり、
現在の総生産量の過半はアルコール添加が行われている。

 一方、アメリカのサケはこの100年以上一貫して純米酒である。
「完全純米」という素地と、
「日本と異なるサケ造り感性」の組み合わせは、
今後、日本にない新しいサケ品質を築いていくかもしれない。
筆者は北米のサケの将来を楽しみにしている者である。

 サケ醸造は時代によって変化しながら、北米の地に根付いている。
初期のころ、サケを醸造した日本人たちの苦労の多くは、
その時代では報われずに消えていった。

 しかし100年を経た今、それらの苦労が結実した感がある。
歴史上、北米でサケ造りに挑戦された多くの日本人たちに、
心から敬意を表したい。

 

                       text = 喜多常夫

 

 

 

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さて、商品紹介・情報紹介です。

 

 

●▲■ご紹介情報 その1  K2ディビジョン ●▲■

「K2ガラス壜」の最近の製品3点をご紹介します。

 

「ジラフ250」・ガラス栓「ヴィノロック」対応
http://www.kitasangyo.com/pdf/bottle/giraffe250_vinoLOK.pdf

「ウイスキー700&750」
http://www.kitasangyo.com/pdf/bottle/Whiskey750.pdf

「KOKOO(コクー)300」
http://www.kitasangyo.com/pdf/bottle/KOKOO300.pdf

 

ガラスびんのことなら、きた産業にお任せください。

 

 

 

●▲■ご紹介情報 その2  ROOTSディビジョン ●▲■

4ヘッドの半自動充填機「サケ・フロイント」
http://www.kitasangyo.com/pdf/machine/sake_freund.pdf

手元のタッチスクリーンから、充填量をデジタルで指定。
ノズルごとに異なる充填量の指定も可能。
小ロット多品種に最適。
今までにない、マニュアル充填機です。

 

「サケ・フロイント」のビデオ(58秒、2018年FOOMA展示会で撮影)
https://www.youtube.com/watch?v=5TJOvJFWihw

 

 

 

●▲■ご紹介情報 その3  アーカイブ情報 ●▲■

 

「シアトルのクラフト蒸留所訪問記」
http://www.kitasangyo.com/pdf/archive/world-alcoholic/craft-distilleries.pdf

「東海岸のクラフト・サケ醸造所」
http://www.kitasangyo.com/pdf/archive/sake-info/craft_sake_us+f.pdf

 

今回のメルマガ本文が、
シアトルのこと、クラフトサケのこと、
なので、関連したアーカイブ資料もご紹介しておきます。

 

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