●▲■ きた産業 メルマガ・ニューズ vol.287 ●▲■

発行日:2022年1月19日(水)
■ アルコール飲料産業のためのクロスオーバー情報 ■

発行:きた産業株式会社 https://kitasangyo.com



------------------< 目 次 >------------------


<酒ブック紹介>

●▲■その1:「ウイスキー・ウーマン」
・・・ 「ウイスキー産業の担い手は男性」という勘違い
●▲■その2:「國酒の地域経済学」
・・・ 「規模が小さいことはマイナスではない」
●▲■その3:「テキーラとメスカル」
・・・ 日本の焼酎のパラレルワールド?
●▲■その4:「酒と酒場の博物誌」
・・・ 飲んだことのない酒、オンパレード
●▲■その5:「飲まない生き方 ソバーキュリアス」
・・・ 飲まない社会は人に優しい?
●▲■その6:「酔いの文化史」
・・・ 酒へのアカデミックな興味、様々

●▲■紹介編4冊:「日本酒がワインを越える日」   「風の森を醸す」
「新政酒造の流儀」  「淡彩スケッチ 日本酒酒蔵」

text = 喜多常夫


ご紹介情報●1▲ 清酒・焼酎の名前のTidbit
ご紹介情報●2▲ きた産業のネットショップ:紙コップ型・空間除菌剤「OPA+」
ご紹介情報●3▲ きた産業のネットショップ:「うえぶ・びん屋」


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オミクロン株の感染拡大は深刻ですが、
読書の時間が増えるのは、せめてものなぐさみ。

今回は、最近読んだお酒関係書籍、6冊+4冊の紹介。
すべてが2020年または2021年刊行というフレッシュな本です。



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●▲■その1:「ウイスキー・ウーマン」
(フレッド・ミニック著、明石書店、2021年8月初版、2,700円+税)


「ウイスキー産業の担い手は男性」、
という先入観が大きな勘違いであることを知らしめる本。

そもそもウイスキーの発祥の地、アイルランドでは、
家庭で女性が蒸留酒を造っていた
、、、という事をこの本で知った。

ウイスキーという名前がつく前、エージングをしない時代の話であるが、
「大英帝国はこれを密造酒として厳しく取り締まった」そうだ。

朝鮮半島の伝統酒は女性がつくる「家醸酒」であったが、
「大日本帝国はこれを密造酒として厳しく取り締まった」のと似ている。
沖縄島嶼で女性が泡盛を造っていた事(例:与那国のどなん)も連想する。



バーボンの「メーカーズマーク」の
あの独特のカタチのボトルと、垂れた赤いワックス封印は、
夫が1950年代にケンタッキーで起業した蒸溜所のウイスキーを売るため

夫人が自宅台所で苦心の末に考案したものだそう。
このボトルが、メーカーズマークを世界ブランドにした。


アイラ・モルトの代表格の「ラフロイグ」が
第二次大戦中、英国軍の秘密弾薬庫だったとは知らなかったが、
(ラフロイグを訪問したことがあるが、そんな展示は一切なかった)
当時の辣腕女性経営者が、軍からウイスキーの樽と社員の雇用を守った。
この女性はとても有能で、戦後、スコッチウイスキー協会の代表として
「ウイスキー=ブレンデッド」だった時代のアメリカに派遣され
「シングルモルト」ブームの萌芽をつくったそうだ。


アイルランドで、イギリスで、そしてアメリカで、、、
ウイスキー産業の、知られざる女性活躍が網羅される。

1920年のアメリカの禁酒法成立に、女性運動が強く影響したのは有名だが、
1932年の禁酒法廃止にも、女性の活動があったことも初めて知った。
末尾には膨大な引用文献リストや注釈があり、
学術的にも価値がある一冊。


「サケ・ウーマン」や「焼酎・ウーマン」、
「ビール・ウーマン」や「ワイン・ウーマン」も、誰か、書いていただけないか。




●▲■その2:「國酒の地域経済学」
(佐藤淳著、文眞堂、2021年3月発行、2,600円+税)


「日本酒は企業規模が大きく機械化するほど、
付加価値の変化率が逓減する
ゆえに、規模が小さいことは必ずしも競争優位にマイナスでない」

「単式蒸留焼酎は日本酒よりも原料コストが低いので
規模経済(=規模の優位性)が相対的に大きい
機械化に対する付加価値の増大も大きい」

「日本酒はボリュームゾーンである大衆酒に課題があるが、
中高級酒分野は、家業的小企業によって発展しつつある」

「単式蒸留焼酎は、大衆酒分野は好調であるものの
中高級酒分野への出遅れが目立つ」



業界人にとって思い当たる(突き刺さる!)指摘が、
豊富な経済学的データやグラフを論拠に展開される。

経済学的ばかりでなく、醸造学的考察もあるのも特徴。
実名の社名・銘柄が多数出てくるが、特に、
「新政」は独立タイトルとして1項目をとって詳しく述べている。

著者は、日本経済研究所から2020年に金沢学院大学教授に転出された方で
国税庁の「日本酒のグローバルなブランド戦略に関する検討会」の委員でもある。

日本酒と本格焼酎を並列して議論する着眼がユニーク。
誰もが注目する「輸出」は本の中ほどで触れていて、
「ツーリズムの可能性」が最終章なのも、先を見た視点だと思う。




●▲■その3:「テキーラとメスカル」
(サラ・ボーウェン著、ミネルヴァ書房、2021年6月初版、3,500円+税)


余談から始まって恐縮だが、テキーラの個人的連想を二つ。

1)
輸出専用清酒免許を取られた「稲とアガベ」というクラフトサケ醸造所がある。
稲とアガ「ぺ」とばかり思いこんでいたが、実は
稲とアガ「ベ」が正しい、と最近になって気づいた。
注:アガぺ(とエロス)=「無償の愛」(と欲望の愛)
アガベ=テキーラやメスカルの原材料の「リュウゼツラン」のこと
サケを造るのだから、稲への愛、だと思っていたのだが、
奥さんが「テキーラ好き」でそんな社名にしたそう。意外である。


2)
ハリウッド俳優のジョージ・クルーニーは「テキーラ好き」で、
自分で(!)試行錯誤しながらテキーラを造っていたが、趣味が高じて商品化、
2013年にパートナーと共同で「カーサ・ミーゴス」という会社をつくった。
カーサ・ミーゴスは、アメリカでプレミアム・テキーラとして大人気になった。
2017年、この会社をディアジオが10億ドル(1,000億円以上!)で買収、
ジョージ・クルーニーは大儲け。
($10億=当初$7億、その後10年の業績に応じ最大$3億)



「テキーラ」は、事程左様に、ディープなファンのいる蒸留酒である。
「メスカル」は、日本ではあまり知られていないし輸入もわずかだが、
テキーラと同じアガベの蒸留酒で、アメリカでは熱烈なファンがいる。
日本でいえば、「大手有名焼酎」と「小規模マニアック焼酎」のような関係。

テキーラとメスカルはともにアガベの蒸留酒だが、
蒸留方法や原料処理方法など、異なる点も多い。
本書は、アガベ蒸留酒の歴史、製造方法、産業構造に加え、
近年のGI登録や原産地の地域指定の過程の様々な「騒動」を記録している。


アメリカ市場拡大を含めたグローバル化の野心の中で、
アガベ100%でない事の是非、アガベ品種や産地の扱い、蒸留方法などについて、
メキシコ政府、大手企業、既存の中小業者それぞれの主張が交錯する。
さらにアメリカからは、アガベ蒸留酒ファンの働きかけもあった。

甲と乙、甲乙混和、エージングの有無、輸入原料の是非など、
様々な課題がありながら、グローバル化を目指す日本の焼酎にとって、
まるでパラレルワールドのよう。参考になる一冊であると感じた。


著者はアメリカの女性人類学者で、アガベ蒸留酒の成長を研究テーマにした人。
前掲書の著者は経済学者で経済学的視点だったが、
本書は人類学的視点といえる。




●▲■その4:「酒と酒場の博物誌」
(南條竹則著、春陽堂書店、2020年12月第1刷、1,700円+税)


入門書からブランド紹介本まで、酒の書籍は年に何冊も出版されるが、
最近は「酒場」や「博物誌」といったタイトルの本に惹かれる。
(コロナ以降、BS放送の吉田類や太田和彦の「酒場」番組も、つい見てしまう)


この本は著者自身の長年の飲酒体験のアンソロジー。
著者は翻訳家・作家で、作家デビューは1993年の「酒仙」という本。
これでファンタジーノベル大賞を受けたそうで、いかにも酒に縁がありそうな人だ。


前2/3くらいが、30話の「酒の博物誌」のオムニバス。
冒頭こそ、サケ(燗酒)だが、後は珍しい酒のオンパレード。

カルヴァドス(リンゴの蒸留酒)、ミード(蜂蜜)、
ペリー(梨の発泡酒)、椰子酒、マッコリ、
本直し(みりん+焼酎)、柚子酒、アプサント(アブサン)、
ラク(トルコのアラキ)、アララト(アルメニアのブランデー)、
シャルトルーズ(フランスの修道院が造るリキュール)、
五皮酒(中国のリキュール)、
雲南省奥地の米の酒、などなど

著者の原体験はワインやウイスキーだそうだが、
ワインやウイスキーなどのスタンダードなお酒以外で、
30の異なる種類の酒体験が書ける人は少なかろう。
飲んだ場所は海外もあるが、不思議に日本が多い。


後2/3くらいが、「酒場」の話。
道玄坂の「雪国」、新橋の「トニーズ・バー」、渋谷の「ラインガウ」など
実店名で、その体験がつづられる。
今はない店もあるようだが、コロナが収まったら尋ねてみたい。



飲酒体験、酒場体験は酒書籍の一つの有力ジャンルで、
昔から多くの人が書いているし、私の書架にも何冊かあるが、
なかでも印象深い一冊だった。




●▲■その5:「飲まない生き方・ソバーキュリアス」
(ルビー・ウォリントン著、方丈社、2021年11月第1版、1,600円+税)


「ソバーキュリアス」は、「sober」(シラフ)+「curious」(好奇心)で、
「シラフへの好奇心」=酒を飲める人があえて飲まないこと。
前掲書とは正反対、酒を飲まない価値を語った本。


泰斗、坂口謹一郎は、若い頃の結核で医者から飲酒を禁じられた。
長年禁酒していたが、40歳になって台湾に1か月くらい滞在することがあって、
寂しさを紛らわすためチビチビ飲酒したところ、かえって体調が良くなり、体重も増えた。
帰国後、奥さんも喜んで酒を奨めるようになり、生涯、酒をかかさず飲んだそうだ。

この著者は正反対で、ジャーナリストという仕事柄もあって、
酒が欠かせない生活を送っていて、特に週末は必ず飲んだ。
ところが2010年の秋、ヨガ合宿の後、初めて酒を飲まない週末を送った。
それで、飲まない生き方の気持ち良さに目覚めたそうだ。


著者は女性で、現在40歳代。
前書きにある著者の経験・経歴はこんな具合。

高校の文化祭の打ち上げで担任の持ち込んだ酒(!)で二日酔い初経験、
トイレで隠れて、友達とドラッグ錠剤でハイになるのも楽しんだ。
大学時代を含め6年間同棲、
酒好き・マリファナ好きの6歳年上の男との同棲だったが、
相手に酒を禁じられ、酒なしでマリファナを吸って従順な女ですごした。
この男と別れるために行きずりの男とベッドを共に。
その後、「タイムズ」紙の記者・編集者に職を得て、お酒にも復帰。
特に週末にはお酒が欠かせない生活となった。

似た経験の(アメリカ)人は多いはずだ、、、と著者はいうが、結構すごい。。。


彼女は1度に飲む量は多めだが、アル中や依存症ではなく、
旅行中以外は2日続けて飲むことはなかったそう。
サケのみ・サケ好きの私から見れば、理想的飲酒と思うのだが、
飲まないことに目覚めた彼女は、その良さを以下のような切り口でとうとうと語る。


酒を飲まないデートの良さ
セックスはしらふに限る
一滴も飲まずに人とつきあう方法
飲まずに寝る睡眠のすばらしさ
飲まない社会は人に優しい、、、などなど


近年、日本で、またアメリカや他の先進国でも、
お酒を一滴も飲まない若者もどんどん増えている。
これは、そもそも酒を飲まない人だからソバーキュリアンとはいわないだろうが、
お酒の世界消費量は、21世紀末に向かって、確実に減るのだと思う。




●▲■その6:「酔いの文化史」
(伊藤信博編、勉強出版、2020年7月初版、2,800円+税)


最後に、ちょっとアカデミックな本。
外国の方7人を含む20人ほどの研究者による、様々な酒の文化史。

江戸の黄表紙本には酒を擬人化した物語がいくつかあるが、
「剣菱」はいつも高位に置かれる

織田信長の残虐性の象徴の髑髏(どくろ)杯は有名だが、
水戸光圀も従者の髑髏に金箔を貼って杯にしていた

寺の前によく立つ「不許葷酒入山門」の碑は、
江戸期に来日した黄檗禅師が、日本の僧の飲酒ぶりに驚いて
それを戒めるために建てさせたのがきっかけ

(「ノアの箱舟」の)ノアが泥酔して裸で寝ているのを、
3人の息子の真ん中のハムは見たが、残りの2人はあえて見なかった。
ノアは自分の泥酔は棚に上げて、そのことでハムを攻め、
生涯、ハムを奴隷として兄たちに使えさせた、、、というエピソードの考察

アンシャンレジームの頃、フランスでは、
ひと月に1-2回酩酊するまで深酒することが
健康に良い、胃を活発にしてそれを維持すると考えられていた

古い読売新聞を分析すると、明治時代を下るにつれ、
「女性の飲酒は道徳的でない」とみなす書き方が増えてくる

明治時代、東北地方では女性の家での酒造りが盛んで
「酒の醸造技能の巧妙は(女性の)婚嫁の一要件たりしと聞く」
(仙台税務監督局、大正10年刊行の密造酒の取り締まり報告)


実にバラバラのオムニバスで、やや難解な論文も含まれるが、
酒文化史の研究輯(しゅう)として、興味深い一冊。

酒には害もあるし、ソバーキュリアスもわかるが、

楽しみや文化を生み出し、人類に貢献してきたことも再認識。




●▲■ タイトルのみご紹介する4冊


去年、清酒蔵元に関する書籍3冊がでています。
末尾の1冊は全国の蔵元の水彩画集。
既刊の「西日本編」や「東日本編その1」と合わせて、ほぼ全国の蔵元を網羅。
無くなった建物、廃業した蔵元の絵も多数で、とても興味深い。

●「日本酒がワインを越える日」
岐阜・渡辺酒造店の社長の渡邉久憲著、
クロスメディア・パブリッシング、2021年10月発行、1,480円+税

●「風の森を醸す」
奈良・油長酒造の社長の山本長兵衛著、
京阪奈情報教育出版、2021年9月発行、1,200円+税

●「新政酒造の流儀」
秋田・新政酒造 ライターの馬渕信彦監修、
三才ブックス、2021年4月発行、1,400円+税

●「淡彩スケッチ 日本酒酒蔵 東日本編 その2」
加藤忠一・立川哲之著 
Kindle版、2020年3月発売、100円

                          text = 喜多常夫



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さて、情報紹介です。




●▲■ ご紹介情報 その1  ●▲■

清酒・焼酎の名前のTidbit(ミニ知識) 4ページ
https://kitasangyo.com/pdf/archive/sake-info/tidbit.pdf


あさひ酒造は5社、きくすい酒造は4社、
男山を含む社名は5社、男山を含む銘柄は多数、
須藤本家・神楽酒造・東酒造・喜多酒造・平和酒造、、、はどれも2つある、
などなど、お酒の名前の蘊蓄?を集めた資料。
襲名している清酒蔵元、24社のリストも掲載。




●▲■ ご紹介情報 その2  ●▲■

きた産業のネットショップ:紙コップ型・空間除菌剤「OPA+」
https://opa-plus-technology.com/


ワンプッシュで内部の2種の薬剤が混ざって
安定的に除菌作用のある二酸化塩素ガスを空間に放出。
6畳程度の空間を約4週間、二酸化塩素濃度0.01ppm以上に保ちます。




●▲■ ご紹介情報 その3  ●▲■

きた産業のネットショップ:「うえぶ・びん屋」
https://web-binya.com/


ガラス壜を1本からばら売り販売。
ガラス栓・ヴィノロックや、ワインシーブスなど、マニアックなガラス製品も。






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●▲■バックナンバー閲覧可能!「メルマガ・クロニクル」

https://kitasangyo.com/Archive/mlmg/BN_top.html

2002年5月の創刊以来のバックナンバーを収録しています。
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2006年4月以来、きた産業のトピックスを写真で収録。
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