●▲■ きた産業 メルマガ・ニューズ vol.296 ●▲■

    発行日:2022年11月28日(月)
  ■ アルコール飲料産業のためのクロスオーバー情報 ■

発行:きた産業株式会社 
https://kitasangyo.com



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< 目 次 >------------------

●▲■ 人口問題と酒類産業

●<日本の高齢者比率>は世界一、高齢者が多いと低金利になる?
●<人口減の日本>の日常飲酒人口、2060年には半減?
●<世界は人口増>でも、酒類消費はすでにサチュレーションへ

text = 喜多常夫

ご紹介情報●1▲ ブログ 「ミラノのSIMEI展示会にて」
ご紹介情報●2▲ 「びん燗清酒」のデザイン・レファレンス・ブック
ご紹介情報●3▲ 「世界サケ醸造所マップとリスト」 2022年版にアップデート



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11月15日、「世界の人口が80億人を突破」というニュースが伝えられました。
「気候変動」、「戦争や紛争」、「世界経済」などと並んで、
「人口問題」はとても深刻な人類の課題です。

「インドが中国を追い抜いて人口世界一になる」とも伝えられましたが、
さっそく、「キリンはインドの新興ビールブランドに追加出資」
という報道も見かけました。(日経新聞、2022年11月23日)


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神戸大学(「灘酒」の地元大学)で「日本酒学入門」という講座の一コマを担当していて、
今月初めに講義をしました。
例年は、「日本酒と海外」がテーマの中心なのですが、
今年は、「人口とお酒の市場」がこれから大事だと思って、時間をとりました。
素人ながら、話すために人口のデータを結構調べたので、
今回は「人口問題と酒類産業」について書きます。




●▲■ <日本の高齢者比率>は世界一、高齢者が多いと低金利になる?


人口のデータを調べようと思ったきっかけになったのは、
「Economist」誌電子版の10月5日号の記事。
そのタイトルは、、、

「Elderly populations mean more government spending,
   They also mean low interest rates」
「高齢者人口は政府支出増を意味する
そして、低金利も意味する」

まさに日本にピッタシである。
「高齢者→低金利」のロジックもさることながら、
掲載されていたチャートがとても印象に残った。
言葉で書くと、、、

「65歳以上人口」が「25-64歳人口」に占める割合は
2020年現在、日本では「50%以上」。
高齢化が進む韓国、イタリア、ドイツ、フランスでも20-30%台。
日本はダントツ1位。

55年後の2075年の予測では、
韓国が猛スピードで高齢化するので、
日本と韓国が「75%超え」で、ツートップに。
イタリア、ドイツ、フランスで50-60%台。
アメリカは2075年でも50%以下。

というチャート。

日本は高齢者比率が世界一であるのは承知しているが、
チャートにすると「愕然とするくらい」他の国より高齢化が進んでいる。

高齢化は社会構造や経済全般に大きな影響があるが、
我が酒類産業にとってもひときわ大きな問題である。


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●▲■ <日常飲酒人口>の予測、2060年には半減?

2020年時点で、日本の人口は1億2,600万人程度。
「飲酒可能年齢」(一応、20歳以上60歳代までをカウント)は
およそ8,000万人程度だが、そのうち、、、

「日常的に飲酒」するのは2,000万人程度
「月1回程度飲酒」が2,000万人程度
「飲まない人・飲めない人」が4,000万人程度
(出典:アサヒビール2021年3月の発表)


上記の「日常的に飲酒=2,000万人@2020年」に合わせて、
「日常的に飲酒」する人口の、「今まで今後を推定してみた。

1990年2,300万人           ←30年前
2000年2,200万人(▲100万人)
2010年2,100万人(▲100万人)
2020年2,000万人(▲100万人)←(10年刻みで見た)現在
2030年1,800万人(▲200万人)
2040年1,600万人(▲200万人)
2050年1,300万人(▲300万人)
2060年1,000万人(▲300万人)←40年後


今までは「10年で▲100万人」くらいの減り方だったのが、
今後は「10年で▲200万人」、
さらに将来は「10年で▲300万人」と、
減り方が加速するだろう、というのが私の推測。

この数字はまったく個人的推測で権威のあるものではないが、
もちろん単なる「勘」ではなく、
今までと今後の人口構成に、年齢層ごとの推定飲酒量をかけて試算したもの。


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「食品」需要は「胃袋(=人口)比例」の法則が基本。
世界では「人口増」なので食品も多く必要。
一方、日本では、
1)「人口減」なので食品需要は減るのに加えて、
2)「65歳以上は一人当たりの消費量が減る」ので、
「人口減」と「高齢者比率増」の「W」で需要が減少する。

「酒類」需要も「胃袋比例」法則がある程度成り立つ。
日本では、
1)「人口減」で酒類需要は減り、
2)「65歳以上で一人当たりの飲酒量が減り」、さらに、
3)「近年20歳~30歳の世代は飲酒しない人の比率が増加」しているので、
「人口増」、「高齢者比率増」、「若年層飲酒減」の「トリプル」で総量が減少する。

以上は、比較的単純な人口面の話で、
給与所得などの経済事情、COVID-19の影響、世界的アルコール規制動向など、
他に様々な要因があることも、考慮して試算した。

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実感している方は多いと思うが、世代によって飲酒量は相当違う。

現代でサンプリングすると、、、
●1950年代生まれ(今、60歳代):よく飲む(飲んだ?)世代
●1970-80年代生まれ(今、40-50歳代):飲酒量が中位の世代
●2000年代生まれ(今、10-20歳代):成人しても飲まない人が増えた世代

一方、ジェンダーによる酒類消費の差は若者ほど縮まってきていると思う。


意味合いは少し違うが、もっと長いスパンで量的な事を書くと、、、

<1人当たり清酒飲酒量の150年の変化>
●1871年(150年前)の清酒課税移出:276万石
÷ 当時の日本の人口3,310万人
                           = 8.3升/年・人
●1973年清酒の最高出荷量の年(約50年前)の清酒課税移出:981万石
÷ 人口1億0,870万人
                           = 9.0升/年・人
●2021年(直近データ)の清酒課税移出:225万石
÷ 人口1億2,570万人
                           = 1.8升/年・にん

<1人当たりビール飲酒量の50年の変化>
●1970年(約50年前)のビール課税移出:298万KL
÷ 当時の日本の人口1億0,340万人
                          = 29L/年・にん
●1999年ビール類の最高出荷量の年(約30年前)のビール類課税移出:722万KL
÷ 人口1億2,660万人
                          = 57L/年・人
●2020年のビール類(ビール+発泡酒+第三、含むクラフト)課税移出:455万KL
÷ 人口1億2,630万人
                          = 36L/年・人




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飲酒人口の減り方は、
総人口の減り方より圧倒的に早いことも指摘しておかねばならない。

40年後の2060年の予測

「日本の総人口」:9,300万人、2020年比▲26%
(出典:国立社会保障・人口研究所、2017年の推計で、
出生中位・死亡中位のもの、次回の推計は2023年の予定)

「日常的に飲酒する人口」:1,000万人、2020年比▲50%
(前述の筆者の個人的推定から

「日常飲酒人口」の減り方(▲50%)は、
「総人口」の減り方(▲26%)の2倍のスピードである。



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●▲■ <世界は人口増>でも、酒類消費はすでにサチュレーションへ

日本市場がダメなら、世界市場に活路を、となる。
今、日本酒も、日本ウイスキーも、本格焼酎も、こぞって世界市場を目指している。
日本政府も、日本のお酒や食品について高い輸出目標を設定している。


世界でも酒類需要には「胃袋比例」法則がある程度成り立っていた。
例えば世界一ポピュラーな酒類、ビールについてみると、
2010年頃までは、
「世界のビール消費」は「世界の人口増加」と綺麗に比例していた。(以下の図1参照)
https://kitasangyo.com/pdf/e-academy/osake-statistics/osake_statistics_1911.pdf 

これは、Inter Brewが買収を繰り返し、
ついにはABを買収してAB InBevになった拡大戦略の根拠と言える。


しかし、2010年以降、世界人口は増加しても、
ビールの(ワインも)世界需要は伸びなくなってきている。
それは、
「人口(=胃袋)増加で酒類消費ポテンシャルが増える」
というアクセルは踏まれているが、
1)「先進国(主要な酒消費国)で高齢者が増えて一人当たりの飲酒量が減る」こと、
2)「世界各国とも20歳~30歳の世代は飲酒しない人の比率が増加」に加え、
3)「世界人口が増加しているのは、アフリカなどお酒を飲む経済余力のない国が中心」、
というブレーキがかかっている、すなわち、
「胃袋増加」アクセルに対して、「トリプル」ブレーキがかかって、サチュレーションになっているのが
現在の世界酒類消費総量の状態であると考える。


日本では、人口は1億2,600万人のうち、
「日常的に飲酒」するのは2,000万人程度、
すなわち、総人口の16%程度(もいる)。

世界では、総人口80億人のうち、
「日常的に飲酒」する(できる)のはごくわずか、
たぶん、2―5%程度ではないか。


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さらに、今年4月のメルマガで書いた、WHOの「The SAFER initiative」もある。
再録すると、、、

文字通り「より安全に」という意味で、以下の5項目の頭文字をとったもの。

[S]trengthen restrictions on alcohol availability
[A]dvance and enforce drink driving counter measures
[F]acilitate access to screening, brief interventions and treatment
[E]nforce bans or comprehensive restrictions on alcohol advertising, sponsorship, and promotion
[R]aise prices on alcohol through excise taxes and pricing policies

この5項目を、説明内容も踏まえて意訳すると、こんな感じ。

[S]お酒を入手しにくいよう制限、お酒に簡単にアクセスできないようにする
[A]飲酒運転対策を強化、強力な法律と呼気検査の徹底
[F]医療的見地での飲酒減の促進、アルコール被害への医療サービスの提供
[E]酒類の広告・スポンサーシップ・プロモーションの禁止、または包括的制限
[R]酒類の価格の引き上げ、酒税の引き上げは需要を減らす有効な手段

4番目[E]の「酒類広告の禁止・制限」はまだしも、
5番目[R]の「酒税をあげよ」というのは、
減税を訴えるのが常の日本の各酒造業界の方々にはショッキングだと思う。
が、WHOは大まじめだし、世界、特にヨーロッパは実際にこの方向に進みつつある。

AB InBevやアサヒなど、世界の大手酒類企業はこぞって、
「NOLO」(Non- & Low-Alcohol)や
「スマート・ドリンキング」にチカラを入れているのは、この潮流を見据えているから。

Japanese Sakéは、世界市場で(日本市場でも)、
「プレミアムセグメント」(付加価値の高い商品)で勝負しないといけない理由でもある。



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冒頭、2022年に世界人口が80億人になったニュースを引用した。
予測では、2037年90億人に達し、
2080年代に104億人でピークとなり、
その後は減少に転じることも伝えられている。
(ピークアウトはもっと早いかも、とも伝えられるが、私そう思う。)

伝染病や戦争などの特殊要因でなく世界人口が減るのは、
有史以来初めてだそうである。
遠い未来の話でなく、今生きている人が体験する未来の話である。


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●▲■ <酒>は文化を創り、人と人をつなぐ

なんだか、暗い話を書いてしまいましたが、
神戸大学の私のテキストのあとがきを引用して、「挽回」の結びにします。

「酒」は、人類の歴史の中で、文化を創り、
人と人をつなぐ重要な役割を果たしてきた。
その弊害から禁酒を法律とした国や時代もあったが、
多くは酒と共存する道を選んできた。
イスラム圏でも、酒造業がある国、飲酒を認める国は多い。

「ワイン」と「ビール」は世界で飲まれるお酒。
数千年前に誕生して以来、メソポタミア・エジプト・ローマ時代、そして現代も、
多くの人に愛され、世界で文化をつくり、また人々をつなぐ役割を果たしている。
「ウイスキー」の始まりは数百年前と新しいが、
やはり世界に愛好家を生み出し、文化をつくり出している。

「日本酒・Saké」は、長年にわたって日本人だけのお酒だったが、
21世紀に入って世界に広がり始めた。
Sakéが、今までにない新しい酒文化となり、
ビール・ワイン・ウイスキーなどと並んで
世界で人と人との新しい繋がりを生み出す力となることを期待します。

焼酎(Shochu)もしかり。
今、世界市場で新しい蒸留酒としてテイクオフしようとしています。

Sakéを筆頭とする日本の醗酵産業は
ある意味で、トヨタ・ホンダなどの自動車産業、
ソニー・日立などの電子・電気産業より、
付加価値の高い日本の産業だと考えます。

text = 喜多常夫





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さて、ご紹介情報です。


●▲■ ご紹介情報 その1  ROOTS + K2 Div. ●▲■
ブログ「ミラノのSIMEI展示会にて」
https://blog.goo.ne.jp/kita-slow_blog


ミラノで行われたワイン機器・資材の展示会の様子。
当社のパートナー企業のブースの紹介です
イタリアのMANGA本売り場の写真(!)もあり。



●▲■ ご紹介情報 その2  KK Div. ●▲■
「びん燗清酒」のデザイン・レファレンス・ブック
https://kitasangyo.com/pdf/archive/package-designs/DRB22_bin-kan.pdf


プレミアムサケでは、「びん燗」(ボトル・パストライズ)がますます増えています。
びん燗用の当社のキャップ、
KT+KS(冠頭・替栓)、jZK-JT、PP30Sなどをご採用いただいていた
720ml・300mlの清酒を収載したデザイン・レファレンスブックです。




●▲■ ご紹介情報 その3 アーカイブ情報 ●▲■
「世界サケ醸造所マップとリスト」 A:データー編
https://kitasangyo.com/pdf/archive/sake-info/world_sake_map_d.pdf 
「世界サケ醸造所マップとリスト」 B:ビジュアル編
https://kitasangyo.com/pdf/archive/sake-info/world_sake_map.pdf 

3年ほど更新できていませんでした。
この間、スイス、オーストリア、オーストラリア、ベトナムにも
新しくクラフトサケ醸造所ができたのはご存じですか?
コロナ禍の3年にもかかわらず、
アメリカではクラフトサケ醸造所がますます増え24カ所に
最新情報を盛り込んで、2022年版に更新しました。






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