●▲■ きた産業 メルマガ・ニューズ vol.312 ●▲■
発行日:2024年5月1日(水)
■ アルコール飲料産業のためのクロスオーバー情報 ■
発行:きた産業株式会社 https://kitasangyo.com
------------------< 目 次 >------------------
●▲■ ケンタッキーで、バーボンウイスキーを見てきた話(その1)
<バーボン・エピソード>
● 「半世紀で評価が変わったお酒」
● 「アメリカンウイスキーの量はスコッチウイスキーの8倍」
● 「伝統酒逓減の法則」に反して成長が続いたが、2023年初めて減少
<バーボンTidbit>
■ アメリカの「バーボン」と日本の「いも焼酎」の共通性
■ 「ルイビルのバーボン蒸溜所」と「灘の清酒蔵」のスケール感は似ている
■ 「バーボンの80%は樽(で決まる)」
text = 喜多常夫
ご紹介情報●1▲ 「洋樽市場の変遷と現状 - 「ウイスキーの樽」+「ワインの樽」
ご紹介情報●2▲ Design Ref. Book 「ガラス栓VINOLOKのご採用事例」
ご紹介情報●3▲ キャップ・クロージャの実務知識 #1~#9
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2024年2月、当社のパートナー会社のオークバレル社の樽のサプライヤーを訪問するため、
関係者4人でアメリカのケンタッキーに出張しました。
あわせてジムビームなどバーボン蒸溜所を見学したので、その見学記を書きます。
本論のバーボン蒸溜所見学記を書く前に、まず、エピソードを3本書きます。
●▲■ <バーボン・エピソード> その1
「半世紀で評価が変わったお酒」
この半世紀で評価が変わったお酒は多い。
■ドイツワイン:かつては高級品だったが今は世界的に需要が低迷。
■ニュージーランドワイン:昔は誰も知らなかったが、今や世界のワイン通に人気。
■日本ウイスキー:70‐80年代は急成長、その後に需要激減、今では世界商品。
■スコッチウイスキー:20世紀末までは、「スコッチ=ほぼ、ブレンデッド」だったが、
21世紀になってシングルモルトが脚光を浴び、いまやスコッチウイスキーの牽引役。
私が好きなスコッチのシングルモルト、アイラ島の「ラフロイグ」は、
半世紀前は97%がブレンド用だった(他社に外販していた)そうだが、
今では70-80%程度が自社ブランドのシングルモルト用だそう。
ニュージーランド製のワインの輸出比率(量の比率)は、
1981年には2%だった(98%が国内消費だった)が、
直近の2023年では88%に達している。
お酒産業では、思いがけない変化が起こる。
バーボンも、この半世紀で評価が大きく変わったお酒である。
かつては「酔うための酒」という位置づけが大きかったと思うが、
今や品質は向上し、プレミアムセグメントが一番成長している。
バーボンは今もアメリカ国内の消費が大部分だが、
その樽が日本や英国のウイスキーで利用されるようになって、国際性も大きく増した。
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若いころは、ウイスキーを飲むならボトル半分が普通だった。
大学生時代から今に至る長い飲酒経験で、
ウイスキーは、数百本分は飲んだと思う。
ただ、散々色々飲んだが、バーボンはあまり飲むことがなかった。
バーボンと言えば、沢田研二の「勝手にしやがれ」の歌詞に
「バーボンのボトルを抱いて
夜ふけの窓に立つ
お前がふらふら行くのが見える」
とあるのを思い出す世代。
この歌は、スコッチでなく、バーボンでないとサマにならないなあ、、、
バーボンは、そんなイメージ。
バーボンやカナディアンは、違うライフスタイルの飲みもので、
なんとなく、自分が飲むウイスキーのイメージがなかった。
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お酒の泰斗、坂口謹一郎先生が半世紀前に著した「世界の酒」では、
ボルドー・ブルゴーニュ・シャンパーニュ・
キアンティ(伊)・ラインガウ(独)・ローザンヌ(スイス)などのワイン、
ドイツ・デンマーク・英国などのビール、
スコットランドのウイスキー、
オランダのジェネヴァ、
フランスのコニャック、
ノルマンディーのシードル、
スペインのシェリー
ポルトガルのポート、
など、実に様々な銘醸地・酒造所を訪問し、記録している。
実際はすべてを実地訪問できたわけでなく、
スコッチウイスキーは、当時の貿易摩擦で日本人には見せなかったし、
ポートは、列車の乗り継ぎに失敗してオポルトまで行けずリスボンでの体験談なのだが、
これらのお酒についても、的確で面白い解説・体験談を書いている。
(これだけのお酒の産地を巡った人は、現代でも稀だと思うが、
実は私は、上記のほぼすべてを訪問したことがあるのが、ひそかな自慢。
単なる見学でなく、様々な取引関係ができての訪問、ということがベースですが、
お酒のキャップ業にして、これだけ海外の銘醸地を廻れたのは、
まことに幸せなことです。坂口さんに感謝する次第。)
坂口さんは欧州周遊の後、船でアメリカに渡って、1カ月滞在し、
ミルウォーキーのビール
ペオリアのウイスキー(かつてはウイスキー産業のメッカ、高峰譲吉もここに来た)
ペンシルバニアのシードル
カリフォルニアのワイン
を訪問したとは書いているが、実際の訪問の記述はなく、
「オートメーション」というサブタイトルでこんな解説を書いている。
「アメリカの酒は、ビールでもウイスキーでも葡萄酒でも、
一般に酒通には評判がよくないようである」
「オートメーションで全工程がすっかり自動化されているが、
そのために各工程で品質上に多少の無理や犠牲が出ることも、
やむをえないところであろう」
「トウモロコシのウイスキー(=バーボン)の会社は、
粕や廃液の利用に力を入れている、変じて飼料会社の如し」
今では事情が異なるが、
昔のアメリカの酒のイメージはこんな感じだった。
●▲■ <バーボン・エピソード> その2
「アメリカンウイスキーの量はスコッチウイスキーの8倍」
「(2025年の)世界のウイスキーの数量シェアは、
1位インド53%、2位アメリカ16%、3位日本4%。英国は5位で2%」
(日経新聞24年3月27日、サントリーの鳥井さんの
「ウイスキー需要急増、投資10年継続」というインタビュー記事の
付属コラム。元データの出所は英国のユーロモニター)
2025年予測なのか現在の事か、記事の記述が少々あいまいなのだが、
いずれにせよアメリカ製ウイスキーは量において、
日本製+英国製よりもずっと多い、という事を初めて知りました。
(あと、なんと、日本製が英国製より多いというのも初めて知った。)
「アメリカンウイスキー」には、
テネシーウイスキー(代表ブランドは「ジャックダニエル」)や
ライウイスキーなども含まれるが、
バーボンの割合は相当大きいはず。
バーボンだけでもスコッチウイスキーの何倍もの量があると思われる。
後で詳述するが、バーボンの空き樽は日本や英国に輸出され
ジャパニーズウイスキー・スコッチウイスキーの貯蔵に再利用される。
今、バーボン樽は数が足りずに需給ひっ迫、価格急騰(後述)しているが、
冷静に上記の数字を見ると、日本や英国がどれだけ使っても
バーボン樽が足りなくなることはない、、、はずだと思った。
世界一のウイスキー生産国・消費国のインドが大量に使いだすと
すぐに足りなくなるが、インドのウイスキーは価格帯が違う。
●▲■ <バーボン・エピソード> その3
「伝統酒逓減の法則」に反して成長が続いたが、2023年初めて減少
先進国には「伝統酒逓減の法則」がある。
フランスやイタリアのワイン
ドイツのビール
日本のサケ
など、どれも自国市場ではこの数十年、減り続けている。
ウイスキーは、ビールと並ぶ「アメリカの伝統酒」だが、
不思議なことに「伝統酒逓減の法則」に反して、
21世紀に入っても2022年まで伸び続けてきた。
とくに2010年以降、毎年5-7%という大きな伸び方を続けていた。
アメリカンウイスキーの場合、自国消費が圧倒的に多いので、
基本的にはアメリカ市場が伸びたことになる。
(ただ、ウイスキーとしての需要のほか、
カクテルベースのための需要も相当量あると思うが)
ところが、2023年に初めて減少に転じた。
Distilled Spirits Councilという組織が公表する、
アメリカ製ウイスキーの20年間の生産量統計によれば:
2002年=1,313万ケース(1ケース=9L)
・
・ (20年間、ほぼ増加傾向を継続)
・
2022年=3,123万ケース(20年で2.4倍)
2023年=3,111万ケース(初めて減少!)
バーボン関係者も、2023年は出荷減になったところがある、と話していた。
今後様々な影響が顕在化するだろう。
さしずめ、バーボン樽の空き樽の数が減るので、
バーボン樽を輸入する業者にとっては、厳しい事態が予測される。
今年に入って世界的にも、
オークションで、高級ウイスキーの取引価格が低迷しているそう。
アメリカや中国の経済状況も影響しているように思うが、
アメリカンウイスキーだけでなく、
ウイスキー全般で減速が始まっているのかもしれない。
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本論のバーボン見学記について書く前に、さらに少し横道の話。
前述の「バーボン・エピソード」は随想的な情報でしたが、
以下の「バーボンTidbit(おもしろ知識)」は、
実際にケンタッキーに行ってみて思った、あるいは、知った、情報です。
●▲■ 「バーボンTidbit」 その1
アメリカの「バーボンウイスキー」と日本の「いも焼酎」の共通性
そのココロは:
どちらも、「主原料は新大陸がルーツ」、です。
バーボンの基本定義は「原料はコーン(トウモロコシ)51%以上」。
ウイスキーの原料は穀物。イネや麦とはずいぶん見かけが違いますが、
トウモロコシも穀物=種子を食用にする植物です。
(昔のトウモロコシは今のように大きくなくて、長さは4-5cmしかなく、
種も小さくて数が少なく、今より「穀物らしい」植物だったそうです。)
そして、トウモロコシは、新大陸がルーツの作物です。
トウモロコシ:
「ブドウが採れないブルターニュでリンゴのシードルがつくられた」
のとは、似て異なるような事情で、
「移民当初は東海岸のニューイングラドで麦のウイスキーをつくっていたが、
開拓で西進してケンタッキーあたりでトウモロコシに出会って栽培が本格化、
コーンウイスキー(後のバーボン)が生まれた」。
当時、作物としてのトウモロコシは流通性や換金性が限られていて、
ウイスキーに加工した、という事情もあったそうだ。
大麦モルトは使うものの、糖化の主原料はトウモロコシで、バーボンが誕生。
始まったのは18世紀後半。
サツマイモ:
新大陸を征服したスペイン人によってヨーロッパに伝えられ、
南アジア、(中国、)琉球、九州、と日本まで伝わった。
稲作に適さない九州のシラス台地で栽培が広まり、
米麹は使うものの、糖化の主原料はサツマイモで、いも焼酎が誕生。
始まったのは18世紀前半と、バーボンより早い。
なお、「バーボン」と「韓国焼酎(ソジュ)」にも共通点がある。
そのココロは:
どちらも、「圧倒的市場は国内。輸出比率は低いものの、輸出先圧倒的1位は日本」。
マーケティングの産物のような気もするが、
日本民族のお酒の嗜好は、少し変わっているのかもしれない。
●▲■ 「バーボンTidbit」 その2
「ルイビルのバーボン蒸溜所」と「灘の清酒蔵」のスケール感は似ている
以前、英国のアイラ島(ウイスキー蒸溜所8か所=2013年当時)に行ったとき、
奄美大島(焼酎蒸溜所10カ所=2013年当時)との相似性を感じました。
蒸溜所数も島の面積もほぼ同じ。
今回は、ケンタッキー(KY)の州都、ルイビルに行って、灘の酒蔵との相似性を感じました。
ルイビル=バーボンの中心地、灘=日本酒の中心地、である。
「ケンタッキー・バーボン・トレイル」というKY州も後押しする公式ツーリズムがある。
その観光地図を見ると、
州都ルイビルの中心地、オハイオ川沿いの
わずか3kmほどの地域に7つのバーボン蒸溜所が並んでいる。
私の地元、灘五郷も、例えば魚崎郷と西郷を見ると、
菊正宗さんから沢の鶴さんまで3kmほどで、同じく7社が清酒を造っている。
スケール感が似ているなあ、と思った。
なお、ケンタッキー州全体では100弱のバーボン製造者があるそう。
2009年には19だったそうなので、この15年でずいぶん増えている。
一方灘五郷には、阪神大震災前には70くらいの蔵元があったが、今は約20。
●▲■ 「バーボンTidbit」 その3
「バーボンウイスキーの80%は樽(で決まる)」
バーボンウイスキーには「内面をチャーした(焼いた)新樽で2年以上貯蔵」
という規則があります。
「バーボンの80%は樽」
バーボン最大手の一つHeaven Hillでツアーガイド氏がそう言うので、少々驚きました。
英語では、
「80% of Bourbon flavor comes from the Barrel」、あるいは
「Barrel defines 80% of Bourbon」、といった表現。
「水、原料、醗酵、蒸溜、風土など様々な要素」、と言いそうなものですが、
樽こそが圧倒的要素であると。
他のバーボン蒸溜所でも「樽が80%」との説明を聞きました。
バーボン業界の共通認識のようです。
「ワイン樽」の場合、
フレンチオークの産地、木材のシーズニング(乾燥)年数、トーストの仕方など、
いくつもの要素があります。
スペックによって価格もずいぶん違います。
が、「バーボン樽」の場合、
アメリカンオークの産地やシーズニング期間(数カ月と短い)は特に問わないようで、
主に「チャー(焼き方)」が違うだけ。
バーボン新樽の価格は尋ねなかったのですが、大きな価格差はないと思います。
それでも「バーボンの80%は樽」なのです。
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「バーボンTidbit」はまだあるのですが、長くなるので今回はここで一区切り。
「バーボンTidbit」の続きと、「見学記本編」は次回に。
text = 喜多常夫
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さて、当社情報のご紹介です。
●▲■ ご紹介情報 その1 :アーカイブ ●▲■
「洋樽市場の変遷と現状 - ウイスキーの樽」
https://www.kitasangyo.com/pdf/e-academy/tips-for-bfd/BFD_63.pdf
「洋樽市場の変遷と現状 - ワインの樽」
https://www.kitasangyo.com/pdf/e-academy/tips-for-bfd/BFD_64.pdf
酒うつわ研究誌に掲載された、ウイスキー樽とワイン樽の資料。
昨年から、オークバレル社がきた産業のパートナーとなっています。
ウイスキー樽、ワイン樽、焼酎樽など、洋樽の事ならご照会ください。
●▲■ ご紹介情報 その2 :アーカイブ ●▲■
Design Ref. Book 「ガラス栓VINOLOKのご採用事例」
https://www.kitasangyo.com/pdf/archive/package-designs/DRB23_vino-lok.pdf
チェコから輸入販売するガラス栓「VINOLOK」は、
清酒、ワイン、焼酎、ジン、ウイスキーなど、
様々なお酒のプレミアム商品でご採用いただいています。
●▲■ ご紹介情報 その3 :e-アカデミー ●▲■
キャップ・クロージャの実務知識 #1~#9
https://www.kitasangyo.com/e-academy/capping-and-Sealing.html
PPキャップ、サケびん口キャップ、カップ酒用広口キャップ、ワイン栓、
ガス入り対応、びん燗殺菌対応、など、様々な技術情報を掲載しています。
「お酒のキャップは、きた産業」です。
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●▲■バックナンバー閲覧可能!「メルマガ・クロニクル」
https://kitasangyo.com/Archive/mlmg/BN_top.html
2002年5月の創刊以来のバックナンバーを収録しています。
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