●▲■ きた産業 メルマガ・ニューズ vol.190 ●▲■
発行日:2014年1月28日(火)
■アルコール飲料産業のためのクロスオーバー情報■
発行:きた産業株式会社 http://www.kitasangyo.com
------------------< 目 次 >------------------
●▲■ リンゴのお酒、シードル ●▲■
●▲■ フランスで30年ぶりに増加
●▲■ ブルターニュとノルマンディーのシードル工場見学記
●▲■ シードルのマーケット分析・・・ビール型?ワイン型?
(text = 喜多常夫)
ご紹介情報 ●1▲ シードルの生産設備:リンゴのプレス
ご紹介情報 ●2▲ コニャック・カルヴァドスの蒸留設備
ご紹介情報 ●3▲(シードルでも使われる)シャンパーニュの設備一覧
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最近のフランスからの配信情報でこんなものがあった。
「シードルは1980年代から30年にわたって
年平均2%程度の減少を続けていた。
しかし2013年に数量で1.2%増と反転。
金額では6%も増。プレミアム化が進んでいる。
ロゼのシードルが50%以上伸び、数量で5%を占めるに至った。
フランスのシードルは、年間生産量が10万KL強、
市場規模は4億ユーロ。」
フランスのシードル生産者組合(UNICID)の12月24日の発表
シードルはリンゴジュースを発酵させたお酒。
リンゴにはブドウほどの糖度はないが、
仮に酵母を入れなくても自然にアルコール発酵するのはワインと同じ。
アルコール度数は3〜6%程度で、発泡性のものが多い。
シードルの伝統的3大生産国は仏・英・スペインで、
これらの国ではワインと区別した独自の呼び名がある。
フランス語では「シードル」(cider)
英語では「サイダー」(cidre)
スペイン語で「シドラ」(sidra)
一方、ドイツ、スイスなども多く生産するが特別の名前はなく、
「アプフェル・ヴァイン」(apfelwein=アップル・ワイン)である。
日本語ではサイダーは清涼飲料水なので、
「シードル」が通称。ただ、果実酒なのでワインと同じ範疇。
(フランスや英国では税金がワインより安い。)
なお、アメリカでもサイダーはノンアルコールを指すので
「ハードサイダー」というのが普通だそう。
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4年ほど前、フランスでシードル工場を見て回ったのだけれど、
その時は特に資料を作らなかった。
この際、当時を思い出して記録しておくことにします。
フランス北西部、
ブルターニュ地方とノルマンディー地方がシードルの産地。
気候的にブドウや小麦を育てるのが難しい、
故にリンゴ栽培をした、といわれる。
フィニステール県(テールのフィニ=地の果て)という地名もあるくらいで、
土地に肥沃さはなく、
特にリンゴ収穫時期の晩秋に行くと自然の厳しさと対峙せざるをえない。
小・中・大の3つのシードル工場を訪問して、
「縦型プレス」、「メンブランプレス」、「ベルトプレス」の、
3種のリンゴの搾り方などを観察した記録。
●▲■ その1:「エリック・バロン」(小規模・手づくり・・・「縦型プレス」)
「エリック・バロン」はエリゼー宮でも使われるシードル。
カーナビなしではたどり着けない細い未舗装路の先に、
15-16世紀のマナーハウスを改装したシードル工房がある。
工房の周りがリンゴ畑。
すべての作業はオーナーのエリック氏(30代の若さ)と、
助手氏(初老のおじさん)の2人の手作業。
まず、助手がリンゴをスコップで粉砕機に投入。
出てきた粉砕リンゴをエリックがスコップで素早く、
プレス(搾り機)に放り投げるるように移す。
一辺が1.5m位の角形の「縦型プレス」で、
中心にある心棒にネジが切ってあり、
ギリギリと回すことで上板を押し下げる単純な仕組み。
プレスには十字型の布(コーヒー豆袋の再利用)が敷いてある。
布の上に適当な大きさの粉砕リンゴの山を作ると、
2人はプレスによじ登って厚さ20cmくらいに均す。
そして十字の各辺を折り返して布でくるむ。
布でくるむのはジュースが出やすいようにするため。
くるんだ布が十数段になったら最上部に棒を通して、
その棒を回してジュースを搾る。
(少しだけのストロークは油圧でも押せる。)
スコップ作業や均す作業を体験させてもらったが、
寒中にして汗みずくになる重労働であった。
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シードル用リンゴ品種はとても小さい。
大型の梅の実くらい。
酸度とタンニン量の順列組み合わせで、
高酸・タンニン多の「渋味」品種、
低酸・タンニン多の「渋甘味」品種、
低酸・タンニン少の「甘味」品種
高酸・タンニン少の「酸味」品種
の4種に分けて使用される。
(フランス語は難しいので英語表現で言えば、
bitter-sharp, bitter-sweet, sweet, sharpの4種)
シードルAOCでは、
例えば「渋味品種7割以上」などと使用割合が定められ、
タンニンと酸のバランス基準が定められている。
搾ったリンゴジュースはタンクで数日間の
「デフェカシオン」工程(défécation - 自然清澄のこと)をへて、
澄んだ液だけを引き抜いて数ヶ月単位の醗酵工程に入る。
デフェカシオンはフランスのシードル独特の工程。
濁り物質ペクチンを、果汁に含まれるペクチナーゼ酵素で自然分解する。
(実際には酵素剤も添加するようだが)
酵素は酸性が高いと効きにくいが、
酸性が低い「渋甘味bitter-sweet」品種が有効なのだとのこと。
その後、数か月単位のゆっくりした醗酵工程に入る。
エリック・バロンでは400リットルの樫樽で、
酵母は添加せず自然醗酵させる。
なお、シードルの代表的な製造カレンダーは以下のごとし。
11月15日‐ 搾汁
11月22日‐ デフェカシオン終了
1月15日‐ Cidre doux(甘口)
2月25日‐ Cidre demi-sec(中口)
4月15日‐ Cidre brut(辛口)
6月 1日‐ 蒸留用シードル(=アルコールが多い)
●▲■ その2:「ドメーヌ・デュポン」(中規模・・・「メンブランプレス」)
●▲■ その3:「ヴァル・ド・ランス」(大規模・・・「ベルトプレス」)
、、、については、書きだすと長くなるので、
以下の写真資料をごらんください。
●▲■ アーカイブ資料 ●▲■
「フランスのブルターニュとノルマンディーにて、
小・中・大規模のシードル、およびカルヴァドスを見る」(5ページ)
http://www.kitasangyo.com/Archive/Data/cidre.pdf
資料にはシードルの蒸留酒、「カルヴァドス」についても書いています。
カルヴァドスは、コニャックと同じく地名由来の名称。
グラッパやマールは「かす取り」であるけれど、
カルヴァドスやコニャックは「もろみ取り」蒸留酒。
より上等といえるでしょう。
ブルターニュやノルマンディーは遠い、と思われるでしょうが、
名物の生牡蠣、ガレット(ソバ粉のクレープ)、
カマンベールやリヴァロチーズをつまみながら、
シードルやカルヴァドスの盃を傾けるのは、価値ある体験です。
有名な観光地、「モンサンミシェル」もあります。
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●▲■ シードルのマーケット分析編 ●▲■
「シードル」というと、
メジャーな酒類でないと思うかもしれないけれど、
英国やフランスではその市場規模は大きい。
現在、英国が世界一の生産・消費国。
少し古いけれど2003年の英国の酒類消費はこんな具合。
ビール: 582万KL
ワイン: 124万KL
シードル: 57万KL(7%)
スピリッツその他: 49万KL
酒類消費合計: 812万KL
「酒類市場の7%」というと、
日本でいえば清酒か本格焼酎のような存在感。
昔はどうだったかというと、、、
坂口謹一郎さんの「酒学集成」に採録されている
「りんごのお酒のはなし」によれば、
「フランスがシードル生産量世界一で、
その生産量は1,000万石(=180万KL!)近い」
と書かれている。1950年頃の数字である。
桁が間違っているのではないかと思うくらいだが、
「アルコール度数の低いものは安全な水替わり」
「国民の健康増進にリンゴを薦めた」、
という要素もあったようで、
「パリの小学校の遠足には小使いさんがシードルを背負ってついてくる
飲まぬものもあるが、その割り当て分を争って取る子供もいる」
とも書かれているのくらいなので、
たぶん正しい数字なのだろう。
その後、フランスのシードルはどんどん減り、
いつのころからか英国が世界一の座についている。
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英国のサイダー生産者協会(NACM)のウェブサイトによれば、
2003年:57万KL→2008年:85万KL→2010年:95万KL
(2010年が直近の公表データ)
フランスが現在10万KLなので、英国はなんと約10倍の市場規模である。
それに7年間で57万KLから95万KL。67%も伸びた計算。
「プレミアム化が進んでマーケットが大きくなった」
とも書かれているが、日本も参考にすべきコメントである。
そのほかのシードルの消費国はどうかというと、
正確には調べ切れなかったが、概ね、
アメリカ: 15万KL前後
アイルランド: 10万KL強
スペイン: 8万KL台
くらいのようである。
やはり、英国は「圧倒的サイダー(シードル)王国」といえる。
世界のシードルの半分くらいは英国で消費されている。
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シードルは中小製造者が多い一方、
大手銘柄が圧倒的なシェア、というのが各国共通である。
<英国>
バルマー社の「ストロング・ボウ(弓を射る男印)」が
トップブランドで、英国で3割くらいのシェア。
ということは「世界で15%くらいのシェア」に相当する。
バルマー社はかつてはS&N(英国ビール最大手)傘下、
現在はS&Nを買収したハイネケンの傘下である。
イギリスでスーパーマーケットの酒類売り場に行けば
ビール缶と並んでストロングボウの500ml缶が必ずあります。
<フランス>
1位のCCLF社、2位のCA社(「ヴァル・ド・ランス」)
の2社でシェアが8割くらい。
CCLF社のシェアが6割以上でモノポリー規定に抵触して、
近年その一部ブランドをCA社に渡したが、
トップ2社は不動。
シードルは英国でもフランスでも
On-trade比率(バーやクレープレストランで提供される)が高く、
Off-trade比率(びん詰や缶で、スーパーなどで売られる)が低い、
のが特徴の酒類である。
ただ、Off-trade製品を見る限り、
英国のサイダーとフランスのシードルはスタイルが全く異なる。
英国は、500ml缶詰が多く、価格も外観も「ビールの仲間」のように見える。
フランスは、シャンパンのようなにマッシュルームコルクを
ワイヤー止めした750mlびん詰め中心で「スパークリングワインの仲間」に見える。
そのことも、英仏で成長に差が出た一因かもしれない。
<アメリカ>
トップシェアはリンゴの故郷バーモント州にある、
専業の「ウッドチャック(リス印)」、
2位はイギリスから輸入される「ストロング・ボウ」のようです。
ビール1位のAB InBevが自社ブランドでシードルを出したり、
ビール2位のMillerCoorsがシードル会社を買収したりで、
市場規模は小さいながら成長市場であるよう。
アメリカのシードルについて個人的な印象を言えば、
クラフトビール醸造所(日本で言う地ビール)で、
ハードサイダー(シードル)をメニューに加えているところが多い。
日本ではシードルは「ワイナリーの仕事」、
と思われがちだが、
アメリカではシードルは「ビールブルワリーの仕事」
の範疇であるのかもしれない。
<日本>
も、参考までに俯瞰しておくと、
ご存じ、ニッカのシードルが圧倒的。
公表統計はない(と思う)が、たぶん量で優に5割以上のシェアではないか。
ニッカの前身は、大日本果汁のリンゴジュース製造であるのだから、
さもありなんとうなずける。
そのほか、北海道、青森、長野などリンゴの産地中心に、
専業メーカー、ワインメーカーがシードルの製造に取り組まれている。
どちらかというと
フランス型(「スパークリングワインの仲間」的)製品が多く、
プレミアムの商品設計で成功されているようです。
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「フランスのシードルは1980年代から30年にわたって減り続けた」
というと日本の清酒を思い浮かべるし、
「減り続けたものが少し反転」
というと日本のウイスキーを連想する。
「フランスで低迷していたものが英国では7年で67%も伸びた」
というのも不思議なエピソードであると思う。
酒類のマーケティングは、
やりようなのだなあ、と思う。
(text = 喜多常夫)
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さて、情報紹介です。
今回はシードル関連の設備を紹介します。
●▲■ ご紹介情報 その1:ROOTSディビジョン ●▲■
シードルの生産設備:リンゴのプレス
http://www.kitasangyo.com/Products/Data/brewing/voran.pdf
オーストリアのVORAN社のリンゴ搾汁機をご紹介しています。
シードルの設備のことなら、ご照会ください。
●▲■ ご紹介情報 その2:ROOTSディビジョン ●▲■
コニャック・カルヴァドスの蒸留設備
http://www.kitasangyo.com/Products/Data/brewing/CHALVIGNAC.pdf
フランスのシャルヴィニャック・プルーロ社の、
シャラントポット(単式蒸留器)をご紹介しています。
●▲■ ご紹介情報 その3:KKディビジョン ●▲■
シャンパーニュ(壜内二次醗酵)の設備一覧 → シードルにも
http://www.kitasangyo.com/Products/Data/brewing/ch_equipment_0711.pdf
壜内二次醗酵のスパークリングワイン設備です。
フランスや英国の一部のプレミアム・シードルでは、
シャンパーニュと同じように
壜内二次醗酵後に壜口の澱を凍らせて除去する方法で作られます。
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http://www.kitasangyo.com/Archive/mlmg/BN_top.html
2002年5月の創刊以来のバックナンバーを収録しています。
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2006年4月以来、きた産業のトピックスを写真で収録。
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